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2013-10-04 07:06
日米同盟、「片務」から「双務」へ大転換
杉浦 正章
政治評論家
日本で初めて開かれた日米外務・防衛担当相会議(2+2)は、米側が「歴史的会議」と位置づけていたとおり、日米安保体制の大転換をもたらすものとなった。首相・安倍晋三の「積極的平和主義」表明が米側からエコーとなって響き、集団的自衛権行使に向けた憲法解釈容認などへの動きを一層強める流れとなった。日米安保体制は、米国の軍事力に軸足を置いた「片務性」から、自衛隊の役割分担拡大の「双務性」へと大きくかじを切った。紛れもない対中共同防衛体制の確立の流れであり、中国は尖閣諸島への軍事圧力強化が、やぶで蛇をつつく結果をもたらしたことになる。世界史の推移を見れば、超大国のはざまにある国はよく「番犬」として使われる。今回の米側の日米同盟積極活用の動きを大喜びするのは人が良すぎる。超大国の冷徹な外交・安保戦略を常に念頭に置く必要があるのだ。1902年の日英同盟が似通っている。当時イギリスの海軍力は世界第一を誇っていたものの,ドイツ・フランス・ロシアの海軍増強がその優位性を揺るがせていた。ロシアを仮想敵国としていた英国は、日本の果たす役割を無視することができなくなり、日本に防壁としての役割を期待して、攻守同盟の締結へと進んだのだ。日本はイギリスのために「極東の番犬」の役割を果たしながら,朝鮮半島支配という独自の利害を実現させようとした。
翻って、米国の現状を見れば、中東における長年の戦争継続で国力は落ち、軍事費の大幅削減は、オバマ政権が極東重視の方針を表明しながらも実体的には中東の泥沼に軍事予算をそそぎ込まざるを得ない状況を形成している。台頭著しい中国に対して、米国は現在は圧倒的軍事力を誇るが、中長期的に見れば、中国の太平洋への進出に一国で対決するのは苦しくなると判断せざるを得ないのだ。渡りに船となったのが、尖閣諸島をめぐる中国の対日軍事圧力と北朝鮮の核とミサイルによるどう喝である。強く反発した日本の世論は、日米安保回帰の動きを見せ、有権者は右寄りの安倍政権を選択した。米国がその政策を見極めれば、集団的自衛権問題にせよ、敵基地攻撃能力にせよ、自国の極東戦略とマッチするものに他ならない。日本を「番犬」として使おうと判断したのは当然の成り行きだ。米軍事戦略は、日本を軸にオーストラリア、韓国を含めた軍事同盟のトライアングルを形成して、中国を「封じ込める」ものであり、安倍の「積極的平和主義」は貴重なる“軍事資源”に他ならない。しかし、「番犬論」には両面がある。日本にしてみれば、米海兵隊は願ってもない「番犬」なのである。既に半世紀前からその見方は、呼称を含めて確立している。1966年に佐藤内閣の外相であった椎名悦三郎は国会で「米軍は日本の番犬であります」と答弁した。予算委で問題になり、再答弁を求められた椎名は、「失礼しました。それでは、番犬様です」と答えたことで有名だ。どっちも信頼できる「番犬様」と思っていればいいことでもある。
2+2の共同文書では、中国について「国際的な行動規範を順守し、急速に拡大する軍事上の近代化に関する開放性及び透明性を向上させるよう引き続き促す」と強調。さらに、「海洋における力による安定を損ねる行動」に対処する用意の必要性を確認、尖閣防衛の方針で一致している。集団的自衛権の行使容認に向けた安倍政権の取り組みなどについては、米側が「歓迎し、日本と緊密に連携していく」と明記した。この2+2をうけて、今後安倍政権は秋の臨時国会で国家安全保障会議設置法案とこれに連動する特定秘密保護法案の成立を図る。来年の通常国会で予算が成立するのを待って、春にも集団的自衛権での解釈改憲に踏み切る。その上で来年末に締結することになった日米防衛協力のためのガイドラインの交渉に入る。したがってガイドラインの中核となるのは、集団的自衛権問題であり、安倍はこれに立ちはだかる公明党との調整を進めなければならない。同党代表・山口那津男は先の訪米での米側の感触について、帰国後「集団的自衛権をやれとは必ずしも言っていない」と報告していたが、事実誤認であった。むしろ2+2の結果は、山口の発言が恣意的な発言であったことを明確にしている。公明党は結局政権にしがみつきたいのであって、政権を降りて日本維新の会にその席を譲る度胸はあるまい。妥協は目に見えている。
一方、共同文書はオスプレイの沖縄における駐留・訓練時間を削減し、米海兵隊部隊の沖縄からグアムへの移転を20年代前半に開始するなど、沖縄の負担軽減への道も開いた。明らかに普天間移転を意識した沖縄懐柔策である。知事・仲井間弘多は議会の答弁で辺野古への移転問題について「これは微妙と答えざるを得ない」と答弁した。民主党時代は怒りもあらわに「県外移転」一点張りだったが、自民党政権になって「微妙」にまで和らいだのは注目すべき変化だ。辺野古埋め立てに向けての年末の判断が注目されるところだ。尖閣問題について国務長官・ケリーは「当事者に対して一方的な行動を取らないように強く求める。それより対話や外交で解決するべきだ」と日中双方に警告した。これはガードを堅めながらも偶発戦争に巻き込まれることを回避したい米国の立場を物語るものである。軍事同盟強化の合意と二律背反で一見矛盾しているように見えるが、そうではない。結局米ソ冷戦で米国がソ連に勝ったように、総力を挙げて同盟関係を強化して、相手を孤立に追い込むというのがアングロサクソンの巧妙なる習性だ。そのうちに中国も内部矛盾が拡大して、共産党1党独裁も崩壊すると見据えているのだろう。それにつけても、朝日の報道はどうしてこうひねくれているのだろうか。一面からだけ光を当てて「日米、同床異夢」と報じている。「同床同夢」の現実から必死で目を背けようとしている。これでは読者まで誤判断に導く。
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