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2013-09-18 18:01
韓国の対日水産物禁輸のWTO提訴を急げ
高峰康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
韓国政府は、福島第一原発の汚染水漏洩を理由として、福島県など8県の水産物を輸入禁止処分とした。これは、GATT第20条の規定に違反する可能性が濃厚である。これに対して日本政府がWTOへの提訴を検討していると伝えられるが、当然のことである GATT第20条は、「この協定(GATT)の規定は、締約国が次のいずれかの措置を採用すること又は実施することを妨げるものと解してはならない」として、輸出入制限等に関する一般的例外を列挙しており、その(b)項は「人、動物または植物の生命または健康の保護のために必要な措置」としている。一方、第20条但し書きは、一般的例外の適用について、「・・・国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする」と規定している。
まず、韓国の行為は、GATT第20条(b)に該当するかが、最大の問題となる。福島第一原発の汚染水による海洋汚染が国際基準を上回るものであれば、確かに、「必要な措置」と言える。しかし、現在のところ、日本は、当該汚染がそのようなものではないと発表し、国際社会は幅広くその主張を認めている。したがって、韓国の禁輸措置は、GATT第20条に認められた範囲を逸脱したものであると考えられる。次に、韓国の禁輸措置が、GATT第20条の但し書きにある「国際貿易の偽装された制限」に該当する可能性も、一応問題となる。仮に、日本に対する何らかの政治的意図を持って、禁輸措置を執ったのであれば、「偽装された制限」と言えよう。ただ、これは、証明が困難であり、実際に提訴となれば、GATT第20条(b)に適った措置であるか否かに絞るべきであり、そのようになると思われる。
日本政府は、提訴の検討に時間をかけるべきではなく、迅速に手続きに入るべきである。間違っても、韓国との摩擦を避ける、などという発想が入り込んではならない。確かに、提訴によって韓国側は反発するであろう。既に一部の韓国のマスコミはWTOへの提訴の動きを激しく非難しているようだが、韓国にはWTOのルールを遵守することを学んでもらわなければならない。WTOの手続きにしたがって通商問題に関する紛争を解決することは、ごく当たり前のことであり、慎重になるべき理由は全くない。それに反発して政治的関係が悪化するのであれば、反発する方が国際的法の支配を理解していないとしか言いようがない。歴史認識問題と全く異なり、この件では、日本の国際的立場は微妙なものではなく、WTO提訴によって誤解されることはない。米国は、アジア戦略の観点から日韓関係の悪化を望んでいないが、ルールに基づいた紛争解決を支持するしかないであろう。もちろん、大部分の他の国も同様であろう。韓国が自制して粛々と手続きが進められれば結構なことであるし、韓国が過剰反応すれば、ひいてはあらゆる韓国の主張に疑問符がつけられることにもつながる可能性すらあり、それだけ自らの立場を悪くするだけである。いずれにしても、日本が困ることは皆無である。
林芳正農水相は、WTO提訴について、「絶対に提訴しないわけではない」と記者会見で述べ、提訴の可能性を排除しないことを明言している。そう言ってしまった以上、提訴しなければ、福島第一の汚染水問題についての日本の言い分が、国際的に信用を失うことに繋がりかねない。逆に、WTOの紛争解決パネルにおいて事実を明らかにすることは、福島第一による汚染への過剰反応が誤りであることを示す良い機会にもなる。したがって、WTOへの提訴をちらつかせて韓国の禁輸措置を止めさせるよう試みるというのも一つのやり方かもしれないが、ちらつかせるだけでなく、提訴の手続き自体を迅速に進めるべきである。韓国側が譲歩すれば、その時点で紛争はなくなるのだから、手続きを取り下げればよいだけのことである。(了)
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