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2013-09-06 06:36
安倍はオバマに大きな“貸し”を作った
杉浦 正章
政治評論家
日本は言うことは何でも聞くと高を括っていた大統領・オバマに、9月3日の電話会談で首相・安倍晋三が「安保理決議を得る努力をして欲しい」と実現不可能な難題を持ちかけた、のが図に当たった。シリア攻撃を決断したものの、孤立感を深めていたオバマは5日、サンクトペテルブルクで手のひらを返したように、安倍と会談、シリア攻撃への賛同を求めた。安倍は「支持という言葉を使わない支持」を表明した。オバマには大きな“貸し”を作り、攻撃反対の習近平は対米関係においてかすんだ。日本は中国と北朝鮮に強いけん制球を投げることにも成功したのだ。オバマは半年前の首脳会談の時が象徴したように、安倍つまり日本を一段と軽く見る感じが濃厚だった。国際会議の度に日米首脳会談を求めた安倍につれない態度で応じて、電話会談でお茶を濁してきた。今回もその手を使ってG20での日米首脳会談を避けようとしたが、甘かった。安倍が電話会談でも孤立化したオバマに救いの手をさしのべると読み間違ったのだ。安倍が求めた安保理決議は、シリア攻撃に猛反対のロシアと中国が拒否権を使って成立しない事が確実であり、英国は参戦しない。これに日本までが加わったら、まさに完全孤立だ。
普通ならせいぜい30分の首脳会談に、オバマは1時間をさき、シリアは言うに及ばず、北朝鮮、日中関係、TPP、集団的自衛権など幅広く話し合ったのだ。それも各国首脳との会談に先駆けて会談するという厚遇ぶりだ。オバマとしては日本の支持を得て、厳しいG20での「瀬戸際の根回し工作」の“突破口”としたかったに違いない。日本外交はオバマに対する処し方を学んだことになる。けん制しないと分からない男なのだ。会談では安倍がぎりぎりの表現でオバマのシリア攻撃を“支持”した。アサドに「責任がある」として、オバマの攻撃決断に「理解している」と述べ、「非人道的行為を食い止める米国の強い責任感に敬意を表する」と述べれば、誰がどう見ても事実上の支持表明だ。会談後大統領副補佐官のベン・ローズが記者団への説明で、「化学兵器に関する国際的な規範を守らせるために我々がやろうとしていることについて、安倍首相から広い意味での支持の表明があったと考えている」と述べたのが、その証拠だ。
親中派のバリバリのケリーを国務長官に据えるなど、とかく日本を“袖”にしがちのオバマはいま「「困ったときの友こそ真の友」ということわざをかみ締めているに違いない。しかし日本にとっても、ここでオバマに“貸し”を作ることは決して悪いことではない。まず第一に公船を繰り出して尖閣諸島を隙あらば掠め取ろうと狙っている中国への強いけん制になる。中国はロシアと並んでシリアへの攻撃に反対であり、オバマには日本の存在感を改めて感じさせるものとなる。さらに重要なのが新「悪の枢軸」対策である。悪の枢軸とはG・W・ブッシュが、2002年の一般教書演説で、北朝鮮、イラン、イラクを指して使った言葉だが、イラクは牙を抜かれたから、これにシリアが入っている形だ。北とシリアの結びつきは極めて大きい。シリアにガスマスクを売ろうとした北朝鮮の船が4月にトルコに摘発された事が物語るように、北の化学兵器がシリアのアサド政権に渡っていることは周知の事実である。また北のミサイル技術やミサイルそのものも渡っていることは明白だ。NHKは8月29日、シリアが射程100キロ余りの短距離ミサイルおよそ40基を北朝鮮から購入したと報じている。北は化学兵器の開発が一番進んでいる国の一つとされており、これがミサイルに搭載されて日本を狙えば、核兵器に勝るとも劣らない破壊力を発揮する。
要するに、他人事ではないのだ。オバマがシリアの化学兵器使用を黙認すれば、イランや北朝鮮のWMD(大量破壊兵器)使用に道を開くことになりかねない。こうした国際情勢をみれば、日本にとってもアサド政権の化学兵器使用は無視できないことなのである。テレビのコメンテータレベルでは、10年前に米国がイラクの大量破壊兵器の存在を間違って認識したから、今回もあり得るというレベルの議論が幅を利かせているが、アメリカの情報機関がそうたびたび間違えるわけがない。政府筋も「今度ばかりは本筋情報に基づいている」と漏らしており、安倍も根拠があっての“支持”なのだろう。米議会は上院外交委員会が10対7の賛成でオバマに対シリア軍事行動を認める決議案を承認した。上院本会議の採決は来週末頃になる見込みであるが、下院の動向はまだ定かではない。オバマは上院の賛同を得られれば、下院を無視して攻撃に出る可能性も排除できない。攻撃にともないシリアが破れかぶれのイスラエル攻撃に踏み切ったり、戦火が拡大する可能性も否定出来ない。また石油、天然ガスの輸入に支障が生ずる可能性もある。ここ1、2週間は固唾をのんで情勢の推移を見守る必要がある。
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