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2013-08-06 06:25
集団的自衛権は、限定的行使の歯止めをかけよ
杉浦 正章
政治評論家
集団的自衛権の行使容認をめぐってここ数日大きな展開が見られたが、いずれも首相・安倍晋三の強い意志が背景としてある。とりわけ内閣法制局長官を交代させるという人事権の行使は、国会審議の先を読んだ対応である。安倍は年内にも憲法解釈を集団的自衛権の行使容認に向けて180度転換する閣議決定を断行する。法制局のハードルを除去して、今後最大の問題となるのは、政権にいながら極東事態の理解に乏しいブレーキ役の公明党をいかに説得するかだ。それには解釈変更と並行して“歯止め”を明示する必要がある。同党内には米国の軍事行動に地球の裏側まで同行して、米軍を守るというような極端な議論が横行しているからだ。かねてから筆者は、問題の焦点は極東における事態の急展開を理解できない内閣法制局の在り方に警鐘を鳴らしてきた。事態の変化にもかかわらず「憲法上は可能だが、行使は認められない」などという矛盾撞着の憲法解釈に固執する立場を依然維持しようとしていたからだ。無理もないことだが、歴代内閣は東西冷戦下における国会答弁を切り抜けるため、法制局をフルに活用してきた。歴代政権は集団的自衛権など行使するつもりなど全くなかったし、その環境も存在しなかったからである。法制局は内閣に直属しており、いわば何でも言うことを聞く“三百代言”であった。
しかし、中国が領海侵犯を繰り返し、北朝鮮が核ミサイルを保有して、日本の都市を名指しで攻撃すると公言している現在の状況は、冷戦時代とは天と地ほどの変化がある。問題はその“三百代言”が、極東に生じている事態を掌握出来ず、まるで“法匪”のごとく従来の解釈にしがみついている事であった。政権を守ってきた“三百代言”が政権に牙をむきそうになっていたのである。安倍がそのトップである長官を山本庸幸から、推進派の駐仏大使・小松一郎に差し替えることは必然的なことであった。官邸筋は交代について「国会の最中に突然辞められても困る」と漏らしている。確かにそうだ。安倍がいくら理論武装して国会答弁に臨んでも、同席する法制局長官にあさっての答弁をされたうえに、食い違いを理由に辞任されたのでは、内閣が持たない。法制局幹部の中には、依然従来の解釈に固執している者がいるようだが、早急に小松が働きやすいように環境を整えなければなるまい。安部が「法制局は内閣から独立した組織ではない」と言うとおりである。時の内閣に反旗を翻しては存在価値がない。
こうして容認への第一関門を安倍は突破したことになる。しかし難問は山積だ。最大の難関は絶対平和主義の創価学会を背景とする公明党のブレーキだ。同党代表・山口那津男は「我が国の領土、領海、領空での武力行使を認めないのが個別的自衛権だが、集団的自衛権は外国での武力行使を認めようとする考えだ。断固反対する」と言明している。これに対して安倍の諮問機関・安保法制懇談会座長の柳井俊二は、まず個別的自衛権との関わりについて8月4日のNHKテレビで、「自衛隊が攻撃されていないにもかかわらず、米国の艦船が攻撃されたときに、見殺しにしていいかという話は、個別的自衛権では説明できない。国際法違反になる」と断言している。安倍の行おうとしている行使容認を拡大解釈して反対論を展開するのは、共産党や社民党など極左政党のおはこだが、山口の論旨は明らかに極左ばりだ。一方で「外国での武力行使」について、柳井は「集団的自衛権というと、ものすごく飛躍してしまって、地球の裏側まで行って、日本と関係のない国を助けるのかとなってしまいがちだが、そういうことでは全くない」と全面否定。防衛相・小野寺五典も「地球の裏側の戦争に巻き込まれることはないことを理解されたい」と政府の考えが米軍に同行して世界中の戦争に参加するような事ではないことを明言した。
ここがすべての急所となる。公明党なしでも民主党内の多数の議員や維新の会は集団的自衛権容認であるから、来年の通常国会での法整備には差し障りないが、連立政権が崩壊するような事態は避けなければならない。そのためには公明党や他の野党、マスコミなどを説得する「歯止め」の構築が不可欠となろう。既に安保法制懇が2008年6月に出した報告書では、国会の事前承認や、新たな法整備、首相の政策判断などによる「歯止め」をかける方針が明記されている。要するに、野放しの行使でなく、限定的な行使である。しかし、より具体的に「歯止め」の内容を明らかにしない限り、公明党を政権離脱に追い込む可能性がある。筆者は、かねてから集団的自衛権の行使は安保条約における極東の範囲に絞れば良いと主張してきた。極東の範囲であるフィリピン以北とするのである。国際法的には、世界中での行使容認が前提であるが、日本は特殊事情があり、政治的に歯止めをかけるのだ。そうすれば、現在起きている尖閣にせよ、北の核ミサイルにせよ、有事の際にはカバーできるのだ。今後安保法制懇は月内にも会議を再開、秋に報告書を安倍に提出。これを受けて安倍は憲法解釈変更を閣議決定する。解釈が政権交代によって変化しないように歯止めとなる法整備を通常国会で行う。こうした流れと並行して「限定的行使」の歯止めの策定と、これに基づく公明党との事前根回しが重要ポイントとなる。
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