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2013-06-21 10:11
米EUのFTA交渉で、世界は変わる?
緒方 林太郎
前衆議院議員
遂に米国とEUのFTA交渉が始まります。10年前であれば考えられなかったものですが、世の中は変わったという印象を持ちます。この結果、非常に深刻なのは多国間貿易交渉であるWTO交渉が更にモメンタムを失うだろうということです。世界の主要国はすべてFTA交渉に乗り出し始めており、ここまで来るともはやWTOで「皆で一緒にやりましょう」という世界ではならなくなります。世界のパラダイムが変わっていっていることに、我々は直面しているわけです。そうした中、EUは交渉開始に先立ち、「放送部門(audiovisuel)」は交渉の対象から外すという合意をしました。EU内の議論で最後までこの主張を崩さなかったのはフランスです。従来からフランスは文化保護の観点から放送部門での自由化を厳に拒否してきました。今回のEUの結果についてブリック貿易相、フィリペッティ文化相がそれぞれ「よかった、よかった」という感じのコメントを発出しました。現行のルールでは、テレビチャンネルの配分、補助金、企業の国籍による差別的待遇が認められているのですが、米国とEUのFTA交渉でこれが覆されるのではないかとフランスは恐れていました。
この件については欧州諸国間も割れており、ポーランド、イタリア、オーストリア、ベルギー、ルーマニア等はフランスに同情的だと報道されていますが、逆に言うと、そうでない国も多くあったということです。英語圏のイギリスなどからすれば、そんなものに付き合わされること自体が嫌だということかと思います。交渉のマンデートを受ける欧州委員会は、この放送部門の除外を大変に嫌がりました。デ・グフト貿易担当欧州委員は、フランスに相当不満を持ったようで、「とりあえず除外した。けれども、将来的なマンデートに加えられる可能性もある。米国から放送部門に関する良い提案があれば、フランスを始めとする加盟国に諮った上で検討することもあり得る」とのコメントを述べました(ただし、ブリック貿易相は「その時もノンと言う」と言っています。)。
デ・グフト欧州貿易担当委員のインタビューを読むと、「フランスだって、地理的表示や政府調達で攻撃的に出たいのだろう。その時に放送部門の除外を提起されて、それらが除外されるではないか。それでいいのか。」というような雰囲気を感じます(注:便宜上「」を付けましたが、発言引用ではありません。あくまでも私のインタビュー読了後の印象でです。)。これは日本でも議論があった「すべての品目、サービスをテーブルに乗せる」かどうかの議論です。放送部門を除外すれば、取れるものも取れなくなるという懸念を持っているということです。何処の国でも同じような議論はあるものですが、フランスはこの手の文化保護については非常に厳格であり、その中心にあるのはフランス語です。この拘りは相当なものがあります。アメリカの番組がどんどん国内で流されたら、自分たちのの文化がダメになっていくという危機感は日本人の想像を超えています。一番有名なのは1994年のトゥーボン法です。当時の文化大臣ジャック・トゥーボンが「公共の場でのフランス語の使用」を定めた法律を作りました。
同法施行の結果、例えば「walkman」は「baladeur」、「software」は「logiciel」という仏単語になり、1995年からフランスに行った私は少々当惑したのを覚えています。また、パリ証券市場における提出文書をフランス語に統一するといった規制が行われ、金融市場にも思わぬ影響を及ぼしたことがありました。我々がEUのポジションにあれこれ言うことは適当ではないものの、このEUないし欧州委員会とフランスの間での放送部門をめぐるさや当てから学ぶところは非常に多いと思いますので紹介させていただきました。なお、私は「すべての品目、サービスをテーブルに乗せる」派です。通商交渉に携わったことのある人は概ねそう思うのではないでしょうか。
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