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2013-03-15 06:28
自民選挙制度は見え見えの“つじつま合わせ”
杉浦 正章
政治評論家
「夜を徹して作り上げる」と息巻いた幹事長・石破茂が、公明党優遇で憲法違反の疑いがある選挙制度改革案をなぜ作り上げたかだ。そこには見え透いた“つじつま合わせ”の野党対策があり、もともと成立など期していないことが明白である。自公以外の全野党が反対する法案を、しかも選挙制度改革法案を、強行突破をはかることなどということは憲政の常道としてあり得ないからだ。そこを看破されては、なんでも「きちんと」が口癖の石破も、こんどばかりは“きちんと”間違ったことになる。選挙制度改革の要諦は、有権者が自分の投票した1票の価値が歴然と分かるものでなければならない。現行小選挙区比例代表制の一大欠陥を象徴するものは、選挙区で落選した議員が比例区との重複立候補でいつの間にか当選していることだ。選挙区で菅直人を落選させて快哉(かいさい)を叫んだ選挙民が、結局「当選」と判明して落胆するようなケースが多い。今回の自民党案は、その分かりにくい現行制度を、さらに二乗したような分かりにくさだ。問題は「比例を30議席削減し、削減後の定数150のうち、90議席は従来通りの方式で全党に比例配分する。残りの60議席は2位以下の政党だけで比例配分する」という部分である。
これは明らかに与党公明党への配慮である。石破はかねてから「公明党がのめない案は提示しない」と述べてきたが、そのとおりで、公平であるべき選挙制度を公明党との“政治折衝”で決めたような案となった。「中小政党優遇枠」を自民党は当初30議席としていたが、拡大を求めた公明党に配慮し、60議席まで広げたのだ。その結果自民党の試算では、比例区において自民党が24議席減、公明党は現状維持となる。トリッキーなのは小選挙区と合わせた与党全体の議席数にある。自公両党では合計で301議席となり、与党が3分の2の議席を占めることに変わりはないのだ。要するに、石破は昨年末の「定数削減については、選挙制度の抜本的な見直しについて検討し、通常国会終了までに結論を得た上で、法改正を行う」という与野党合意にとらわれるあまり、「身を切る案」を作ったが、一政党の思惑がありありと出てしまう結果となった。どうも石破という政治家の特色は、一見すべての方程式を鮮やかに解くように見えるが、1+1が2にならない政治の現実を理解しない傾向がある。理路整然と間違うゆえんである。
そもそも選挙制度改革は、一政党が恣意的な思惑で作るべきではない。とりわけ比例区で優遇枠を作ることについては、憲法の命ずる平等選挙と普通選挙の原則に抵触する恐れが濃厚である。憲法は1票が平等に行使されることを何より求めており、政党が選挙結果を恣意的に“操作”することにより、1党に有利になるように導けば、当然違憲となる可能性が大きい。具体的に改革案の違憲性を指摘すれば、比例1位の政党に投票した1票の価値が、2位以下が優遇されることにより低下することだ。その証拠には、衆院議長・伊吹文明も「憲法上の問題があって難しい部分もある」と指摘している。伊吹が衆院法制局の見解を聞いていないはずはない。また民主党幹事長・細野豪志も「投票価値の平等という観点から憲法上許容されるか疑問」と述べている。維新、みんな、共産などもこぞって反対である。また比例の定員を30人削減することも根拠薄弱だ。いつのまにか消費税対策で政党も身を切ることを、定数削減で実践しようということになってきたのだ。民主党が“いい子”になろうとして、80人削減を言い出したのが最初だが、国民が求めているのは健全なる議会制度であって、取引でもバナナのたたき売りでもない。方向性が初めから間違っているのだ。議員にかかる費用は、1人年間1億円で、自民案を合計してもたかだか30億円だ。数を減らして、多様な民意の反映ができなくなることの方が問題であろう。
こうした欠陥だらけの制度改革にもかかわらず、首相・安倍晋三と公明党代表・山口那津男は3月15日に会談、合意して法案提出を図る方針だという。しかし、冒頭述べたように成立する可能性はなく、「身を切る案」を提出したという世論向けのつじつま合わせと、野党に対するけん制でしかない。要するに、選挙制度は国会における駆け引きの道具として使われるのである。これは国民の失望を買って、順風満帆に見える安倍政権の最初のつまずきになる可能性が大きい。自民党の狙いは、国会論議でぐちゃぐちゃにして、成立しないことを国民の前に現出して、それを野党のせいにするとともに、結局は選挙制度を第9次選挙制度審議会に付託するしかないところに持ち込むところにあるとみた。先の先を読んで、ずるがしこい手段を講ずる自民党政権の悪い病気がまたまた再発した感じだ。そんな、回りくどい手段を講ずるよりも、最初から選挙制度審議会に付託して、現行制度を中選挙区制に戻すことを含めて検討させればよいのだ。
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