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2013-01-08 09:59
「安心できる老後」は実現可能か
石崎 俊雄
龍谷大学教授
前野田政権における3党合意による税と福祉の一体改革は、政権が替わった今後も維持され推進されることになるのであろう。しかし、そもそも今の日本に老後の高福祉を提供できる力があるのであろうか?昨今、福祉について国民が語る際、共通して出てくる言葉が「安心できる老後」という言葉である。これまでの日本の福祉制度がこの理想にどれほど近づいているのかに関して少し振り返ってみたい。
結論から言えば、今まで「安心できる老後」を実感できた若年世代は日本の歴史上で皆無であるということである。一番この状態に近かった世代は、まだ老齢人口がそれほど多くなく、高度経済成長期に老年を過ごした大正末期から昭和初期に生まれた世代である。しかし、この世代はご存知のように青年期に昭和恐慌や太平洋戦争を体験し、決して老後が保証された青年期を送ったわけではない。しかも彼らが老齢期に受けた福祉は子世代からの金銭的扶養に関する福祉であって、現在のような医療や介護を主とする老齢期福祉とは質的には異なるものである。
このように見てみると、現在我々が考えている「安心できる老後」という目標は、これまでの実績に比べてあまりにも乖離しすぎているのではないだろうか。一部政党や政治家はこの目標が実現されていないのは政権党がそういう選択肢を取っていないからだと主張するが、とてもそのように容易いことではないというのが現実である。一部北欧の国々で「『安心できる老後』が実現できている」という主張もあるが、日本の国民一人当たりのGDPは、ノルウェーと日本を比べると実に400万円以上、スウェーデンとは95万円、フィンランドとでも25万円ほど低いのである。今後、日本の高齢化がこのまま進むと日本のGDPはさらに落ち込むことが予想されている。したがって、経済力の差が高齢者福祉の差であり、どの政党が政権を取ってもこの状況を容易に変革できる可能性はないことが理解できる。
日本ではなお悪いことに、手厚い高齢者福祉を声高に主張している政党のほうが日本の生産力向上や経済成長を軽視する傾向があり、ある意味で絶望的である。今後福祉を充実していくためには、今後どれくらいの人口を維持し、どれくらい生産を行い、どれくらいのレベルの福祉を行うのかの目標を立てた上で、着実に計画を実行していくことが必要である。政治家からこのような話が出てくることがほとんど無いのは残念の極みである。
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