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2012-10-19 06:55
大包囲網の中で野田が「解散新提案」へ
杉浦 正章
政治評論家
国家戦略相・前原誠司は独特の政治美学を持っていると思う。自らの外国人献金が発覚するや、「世話になったオモニに迷惑をかけられない」と、直ちに外相を辞任した。法相やどこかの党の幹事長とは大違いだ。その前原が、今度は焦点の臨時国会の解散について、10月18日「民主党政権がどうなるか分からないが、国家のために早期解散がいい。先送りしていると見られることは、決して良くない」と発言したのだ。まさに政局の核心を突く正論であり、野党に転落させるのが惜しい民主党の人材の一人である。いまだに首相周辺には「解散はない」のラッパを吹き続け、往生際の悪い党利党略人間がいるが、「爪の垢でも煎じて飲め」と言いたい。野田は観艦式で「言行に恥づるなかりしか」と訓示したが、まさに自らに言い聞かせたものと受け止めたい。政局の鼎(かなえ)がいよいよ沸き立った。19日午後4時からの党首会談で野田が2か月前に「近いうちに国民の信を問う」と述べた“つけ”を支払わされる場面に到ったのだ。政治状況はとみると、これ以上ないほど完璧な“解散包囲網”が出来上がった。
まず国会では、自民、公明両党に加えて、他の野党7幹事長らが18日野田に対して早期の国会召集と衆院解散を求める声明文をまとめ、民主党に突きつけた。声明文は「国民の声に背く政治姿勢をとり続ける野田内閣は、不信任に値する。衆院を速やかに解散し、国民に信を問うべきだ」と一刀両断に解散を求めている。加えて世論の動向も、早期解散要求一色に流れている。毎日の世論調査では自民党総裁・谷垣禎一に野田が示した「近いうちの衆院解散」の約束について、「首相は約束を守るべきだ」が71%に達し、「守る必要はない」の18%を大きく上回った。民主支持層でも69%、自民支持層では78%が「守れ」の回答だ。新聞の社説も早期解散要求一色だ。朝日が「早期解散へ、環境整えよ」と書けば、読売は「解散を遅らせることを目標とするような政権は、存在意義が問われる」と断じている。こうした中でまず幹事長・輿石東が従来の主張を転換して、柔軟姿勢に変わった。選挙制度改革では「0増5減」の優先を認めた。判断力のない政治家や政治記者を惑わし続けた衆参同日選挙論も打ち消した。幹事長代理・安住淳は「野田佳彦首相は誠実な人柄。約束は守る」と確信ありげに述べるに到った。
3党幹事長会談の影には、この安住と自民党幹事長代行・菅義偉の事前の根回しがあるが、菅は「だんだんと解散・総選挙に向けて流れ出した」と漏らしている。注目すべきは自民党総裁・安倍晋三の党首会談へのコメントだ。菅の報告を受けたのだろう「年内の解散・総選挙が行われるという認識に至る、具体的な提案があると思う」と発言した。この発言は、期待感と言うより、自民党総裁としてのメンツをかけた「判断」を打ち出したとみるべきだろう。事実、輿石も「具体的なことは言えないが、首相から何らかの新しい具体的な提案があるのではないか」と、18日の幹事長会談で自公側に伝えた。問題はその「具体的な提案」とは何かだ。少なくとも抽象的であった「近いうち解散」より踏み込まなければ具体的とは言えない。時期の明言はしないにしても、野田は早期解散に1歩も2歩も踏み込まざるを得ないだろう。ここで自公と民主党との対立軸をみると、既に一点に絞られてきていることが分かる。焦点は、自公が「解散なしに、赤字国債発行法案も、選挙制度改革もない」なのに対して、輿石が真逆の「法案成立なしに、解散なし」の条件闘争に煮詰まってきていることだ。加えて赤字国債人質化を避けるために本予算と一体で成立させる方向での法改正も検討課題となっている。
これらの課題は、赤字国債法案も、定数是正も、自公が認めればけりが付く話であり、定数是正などは「0増5減」が先行なら、時間はかからない。既にある自民党案に民主党が乗るだけの話だ。総選挙に間に合わなくても、最高裁には国会の姿勢を示しておけば、こと足りる。党首会談では「法案成立の確約」と「解散の確約」のはざまで、野田が自公も納得できる早期解散の表現をどうひねり出すかにかかっていると言えるだろう。野田は14日の自衛隊観艦式で異例の「海軍五省」を訓示に使った。旧日本帝国海軍の士官学校である海軍兵学校において、生徒がその日の行いを反省するために自らへ発していた5つの問いかけが「海軍五省」だ。「至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか」「言行に恥づる勿かりしか」と訓示したのだ。これは野田の政治哲学にもつながる発言であると、重く受け止めるべきであろう。うそをつく気がないが「至誠」であろう。とりわけ「言行に恥づる勿かりしか」と述べたのは「近いうち」のツケをしっかり払わざるを得ないという決意表明と受け止められる。もう筆者がかねてから主張してきたように「話し合い解散」に踏み切るべき時なのだ。
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