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2006-09-07 01:19
東アジア地域協力とASEAN東アジア研究センター
池尾 愛子
早稲田大学教授
日本では、東アジア共同体の形成や構成をめぐる議論が盛んになりつつあるようだ。どの国が参加するのか、どの国が主導権をとるか、といった政治的トピックだけではなく、経済統合がすすむとどうなるのか、どのようにアジア共通通貨を創るのかなど、経済学者たちの発言も聞こえてくる。
ところで、東アジアで共同体を形成する目的は何だろう。経済学の基本的な発想を援用すれば、それは民間セクターが自由に活動できる環境を整えることにつきるだろう。ビジネスでもよい、観光でもよい。さまざまな文化交流、研究者や大学院生による専門知に基づく交流でもよい。そして、人々がそれぞれの交流体験を積みかさねるなかで、信頼関係が育っていくだろう。民間人の自由な交流には平和と安全が必要条件であるが、自由な交流の進展は平和と安全を助長することであろう。
20世紀を振り返ると、1920年代に、それまでなかったほど国際化が進展し、専門家の交流や学生の留学の機会も増えていた。しかし、日中戦争(1937~45年)、アジア太平洋戦争(1941~45年)、第2次世界大戦(1939~45年)により、国境を越えた自由な交流や経済活動は中断したり、同盟国内に限られたりした。1945年以降、世界は国際的平和と安全を築く努力をすすめるとともに、自由貿易と開発を2大経済理念とする市場経済グループに属する国々を徐々に増やしてきた。関税・非関税障壁を減らし、より自由な貿易を進めると、国全体としての生活水準が高まっていく。各国の経済的相互依存関係が深まっていくと、交易の遮断は人々の生活水準の低下を意味することになる。
東アジアで国境を越える自由な経済活動をすすめていくためには、市場経済に頼ることになる。どのような活動をおこなっていくか――営利活動、非営利活動、政府援助利用活動であれ――は、各個人や各組織が社会的ニーズと費用を考慮して決定していくことになる。非営利活動といえども、収支赤字が続けば、活動を継続することは困難になる。ただし、市場は真空中では働かない。市場経済がうまく働くように、その基盤(インフラ)を整えることが必要で、これは政府の仕事になる。例えば、通貨の交換可能性の維持や不公正取引の防止などがあげられる。
もちろん、発達した市場経済においても調整機能がうまく働かない場合があり、それは「市場の失敗」として知られている。そのときには、政府が経済過程に介入することが期待される。市場経済において大きな調整が必要なときには、その新しい方向にむけて人々が行動を変化させるように(補助金や減税などで)誘導することも必要とされる。現在では、省エネルギーや環境対策に向けての誘導が重要であろう。
国境を越えた地域協力の例を、ヨーロッパの戦後史に見いだす人々は多い。ただし、現在の欧州連合(EU)と経済協力開発機構(OECD)に見られるように、それが二本立ての取組みであったことに注目すべきである。EUはブリュッセルに本部をおく地域組織であり、OECDはパリに本部をおくグローバル組織である。地域の安定のためには、グローバル組織の活用も必要なのである。
OECDは先進国クラブとも呼ばれる。その設立目的は「世界的視野に立って国際経済全般について協議すること」であり、そのための経済データの収集と分析、データを産み出す制度の比較なども行なってきた。これは各国の専門家たちの国境を越える協力と努力によって実現してきた。地域協力に向けて、グローバル比較可能な基礎データを獲得するという意味で、先の東アジアの経済担当相会議(8月23日)でだされたASEAN東アジア研究センターの設立提案(将来的には東アジア版OECD構想につながりうる)に寄せられる実際上の期待はきわめて大きいと思う。
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