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2012-07-24 06:52
野田政治とサイレント・マジョリティ
杉浦 正章
政治評論家
世の中には道理の分かる人も、分からない人も、それぞれ多い。古来「目明き千人、盲千人」と言うが、目の見えない人が果たして判断能力に欠けているかというと、下手な「目明き」よりよほど確かである。したがって、このことわざは「賢者千人、盆暗(ぼんくら)千人」と言い直すべきであろう。その盆暗千人を象徴する前元首相二人から首相・野田佳彦が揺さぶられている。元首相・鳩山由紀夫は、反原発デモに参加、野田を「シロアリ」と呼び捨てた。前首相・菅直人は、野田を面と向かって「国民の怒りの対象になっている」と非難した。オーバーなマスコミ報道で野田は一見孤立風に見えるが、孤立しているのだろうか。いま首相が思っていても、絶対に口に出してはならないならない言葉を、先人が発している。1960年安保反対のデモに直面した時の首相・岸信介の発言だ。それは「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りである。私には“声 なき声”が聞こえる」である。デモ隊を刺激して死者まで出した。結局岸は退陣に追い込まれた。一方で、その10年後の1969年に米大統領・ニクソンは、ベトナム戦争に反対する学生運動の盛り上がりに対して「サイレント・マジョリティがいる」と発言。やはり問題になったが、今度は本当にサイレント・マジョリティの存在が分かった。ニクソンは1972年の大統領選挙で50州中49州を制して再選されたのだ。
岸の場合は、厳しい冷戦構造の中で、ソ連、中国と通じた左翼勢力とのすさまじい戦いであり、明らかに安保改定は国家100年の計を見据えた見事な決断であった。野田の消費増税と原発再起動の決断は、左翼の思惑に一般国民の素朴な感情が加わって反対運動に広がりを見せているが、これも10年後、20年後には正しさが証明されるだろう。「声なき声」の多数は、歴然と存在するのだ。米軍のオスプレイ配備に対する反対も、一過性の反対運動とみてよい。災害時に米軍がオスプレイで協力すれば、一挙に国民感情は好転する。いまや災害救助隊そのものである自衛隊も、災害対策に導入したらどうか。昔、原子力空母寄港反対のデモが盛りあがったが、東日本大震災における米空母艦隊の「トモダチ作戦」で涙を流さんばかりに喜んだのは、大多数の国民である。安保条約は6条と交換公文で「重要な装備の変更」は事前協議の対象と定めている。だが両国政府はその範囲を核兵器の搬入に限定しており、米国は条約通りに日本防衛義務を果たそうとしているに過ぎない。マスコミの反対キャンペーンは、そこに大きな見間違いがある。
そこで前元首相の発言に戻ると、あきれんばかりの大衆迎合である。まず菅だ。「『野田さん、あなたは国民の怒りの対象になっていますよ。分かっていますか』と言うと、野田さんは『え、そんなことになっているの』と言っていた」とのやりとりを明らかにした。しかし、野田も、菅にだけは言われたくない思いであろう。国民の怒りの“対象度”を独断ではかれば、菅100に対して野田は0.5だ。事故調査の結果、原発事故も菅の初期対応の悪さが引き起こした部分が大きいことが証明されているではないか。鳩山の「野田首相はミイラ取りがミイラになるように、シロアリ退治隊がシロアリになってしまった」発言も、これまた鳩山にだけは言われたくない発言だろう。雨合羽を着てデモに参加して、元首相たるものが大衆にすり寄り、迎合する。「みなさんの新しい民主主義を大事にしたい」と扇動する。馬鹿な発言を繰り返して、民主党の土台を食い散らかしたシロアリは、自分であることに目覚めていない。知識人もあきれんばかりだ。TBSの番組で政治学者の御厨貴が、反原発デモを「かってのベ平連」と、悪名高きベ平連運動にたとえて礼賛。エコノミストであるはずの浜矩子は、まるで虎の皮のふんどしをしたカミナリのような表情で、原発再起動を「血も凍る話。刺客を差し向けたい」と、物騒にも野田に刺客を出すと宣うた。あの顔から見ると本当にやりかねないから“怖い”のだ。原発停止でエコノミストたる者が、国の経済の根幹を破壊しようというのか。もう何を言っても信用出来ない。
こうして「盆暗千人」たちは意気軒昂だが、親身になって野田の身を案じているのが、消費税旗振り役の民主党税制調査会長・藤井裕久。7月23日野田に会って「あまり積極的にいろんなことを言うべきでない。九仞(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く。消費税一本に絞るべきだ」と“友情ある説得”をした。確かに野田は、最大の課題の消費増税法案に加えて、原発再起動、尖閣国有化、集団的自衛権、オスプレイと、次々に重要な決断を続けざまに出している。いきおい多正面作戦となり、それだけ自民党などが突くすきを見せることになりかねないのも確かだ。しかし、方向性が正しい限りどんどん推進したらいい。その方が政治の停滞を打ち破れる。歯にきぬを着せぬ元官房長官・野中広務が「こんな首相はちょっとおらんなあという気持ちで眺めてきた」とベタ褒めなのも珍しい。自民党の伊吹文明が「ドラマは参院で始まる」と不気味なご託宣をしているが、野田はもとより承知だろう。ここはひるむことはない。自信を持って物事を進めるべきだ。
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