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2012-06-21 06:58
「小沢新党」は結成前から“消滅”の危機
杉浦 正章
政治評論家
「四面楚歌」とはこのことを言う。元代表・小沢一郎は漢の劉邦に破れた楚の項羽のようでもある。敵軍が歌う故郷の楚の歌の合唱を聞いて、もう駄目だと悟った項羽だ。項羽は動かなくなった愛馬騅(すい)を「騅逝(ゆ)かず 騅の逝かざるをいかにせん」と詩に詠んだ。これに続いて夫人の虞(ぐ)美人を「虞や、虞や 汝をいかにせん」と続けたが、小沢夫人はとっくに亭主に愛想を尽かせて逃げ出していない。だから、こればかりはちょっと真似できない。小沢陣営最後のあがきは、多数派工作での「衆院議員54人の獲得」に象徴される。民主党を過半数割れに追い込もうというのだが、民主、自民、公明の“大軍”に囲まれては、手兵での包囲網突破はまず不可能だ。「小沢新党」で突撃しても、展望は開けない。6月20日の両院議員懇談会における「小沢軍」の“反撃”は、哀れをとどめた。チルドレンの1人が「次の選挙をやっても、1年生議員は全員いなくなる。我々が捨て駒になって、消費税だけが通って、民主党は、野党に転落するのだ」と嘆いたのに象徴される。
それにしても置かれた立場が全く分かっていない。「風」で当選したチルドレンは、もともとバブルの如く消えゆく存在なのだ。国会議員になれただけでも望外の喜びとしなければならないところを、まだ議席にしがみつこうとする。飽くなき人間の欲望を感じさせるだけで、何の感動も生まない。かねてからその方向性に疑問があると感じていた東祥三に到っては「野田総理がひょっとしたら合意を撤回してもらえる蓋然性が無とは言えない」だそうだ。自分が切られたことも分かっていない。首相・野田佳彦が3党合意を撤回することなどあり得ない。こうして執行部のもたつきもあって、自公両党を激怒させながらも、野田は社会保障と税の一体改革という所期の目的を達成しつつある。問題は四面楚歌の小沢がどうするかだ。小沢グループは固く見積もっても80人といわれており、会合が100人を超えるケースもまれではなかった。しかし、野田が「党議拘束がかかっている」と反対議員の処分を明言し始めると、脱落者が急増。反対投票を公言するものは40人程度にとどまった。処分もさることながら、チルドレンでもようやく、消費増税法案の意味するところが分かってきた証拠であろう。
軽薄にも民放テレビに頻繁に姿を現して「反対だ」と息巻いていた川内博史も「両院議員総会で多数決を取り、どちらが勝っても、負けても、勝った方に従うべきだ」などと、“条件闘争”に変わった。おろおろしているのは鳩山由紀夫で、野田や執行部に会う度に「反対しても除名処分などはすべきでない」とまるで命乞いだ。この結果、小沢は戦術の転換を迫られた。消費税をひっくり返すことをあきらめ、戦線を縮小して「内閣不信任案」で政権を揺さぶろうとしているのだ。側近らに「54人以上」という数字をマスコミ向けに宣伝させ始めた。54人以上が離党すれば、民主党は過半数割れとなり、野党の不信任案に同調すれば可決できる、という“新戦術”だ。しかし、この戦術をよく分析すれば、貧すれば鈍するで、小沢の頭の回転の鈍化しか意味しない。成り立たないのだ。なぜならまず第一に、万が一でも不信任案が成立すれば、野田は総辞職はしない。解散に打って出る。解散・総選挙となれば、消滅するのは「小沢新党」に他ならない。自分に跳ね返るのだ。また、野党が不信任案上程に動くかだが、参院審議でのハプニングや、野田が解散に応じないような場合には考えられる。しかし、マスコミはいったん合意した消費増税法案の成立を撤回するような動きには100%賛成しない。野党といえどもいったん達成した合意を撤回するわけにはいかない“構図”が出来上がりつつあるのだ。
不信任案どころか、選挙の後には政界再編、民・自・公大連立の可能性が模索され始めているのだ。小沢は延長国会での解散が観測される中で、消滅必死のチルドレンを集めて「新党」を作っても、展望が全く開けないことには変わりがない。小沢が一時は秋波を送った大阪市長・橋下徹も、さすがに小沢と手を組むつもりはないだろう。都知事・石原慎太郎も小沢と連携する可能性はゼロだ。国会会期は9月8日までとなりそうだが、総裁選を控えている自民党総裁・谷垣禎一にしてみれば、もたもたと会期末まで国会を持たせる気持ちは皆無だろう。早期に消費増税法案にけりを付けて、解散への条件を整え、野田を追い込もうとするだろう。昨日筆者は野田・谷垣電話会談での「解散密約説」を書いたが、21日の読売がこれを追いかけている。「野田と谷垣が8月21日公示・9月2日投開票の日程で握った説」や、「7月末解散、9月9日投票説」を紹介している。あがき続ける小沢には悪いが、解散となれば関羽のように側近28騎と共に敵陣に切り込んで、討ち死にの様相が遠望できる。小沢は「新党」を作っても“消滅”が待っているだけなのだ。
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