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2012-06-15 06:29
民主・自民大筋合意は、事実上の「小沢切り」だ
杉浦 正章
政治評論家
最後までもめた消費増税法案をめぐる3党協議が自民、民主両党の大筋合意で、衆院での可決と会期延長へと大きく動き出した。この結果、政局の焦点は民主党内の了承手続きに移行する。ここで潮流に待ったをかけて立ちはだかるのが民主党元代表・小沢一郎と元首相・鳩山由紀夫だ。この期に及んで消費増税法案に反対で足並みを揃えた。マニフェスト原理主義者の小沢と、「国民的冷笑の人」鳩山が、「総選挙圧勝をもたらした公約を棚上げにするのがけしからん」で一致したのだ。近ごろの「政局」にとっては欠かせないこのコンビだが、小沢も方向音痴の「鳩が出るぞ」が頼りでは、勝利はおぼつかない。昨年の首相・菅直人への不信任案への体たらくが如実にそれを物語る。民主、自民、公明3党は6月14日までに、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連7法案の修正で大筋合意した。この結果、7法案とは別に自民党が“仕掛け”ている「社会保障制度改革基本法案」の扱いに移行した。15日未明までぎりぎりの折衝が続いた結果、民主、自民両党で基本合意に達した。焦点の最低保障年金の創設と、後期高齢者医療制度廃止の撤回問題で、自民党が文言で柔軟姿勢を示し、両党とも有識者による「国民会議」への“棚上げ”で決着した。筆者が7日の段階で予想したとおりとなった。
自民党にしてみれば、合意をしなければ解散が先延ばしになるとの判断がある。また大筋合意は、政治的には自・民両党による「小沢切り」を意味する。自民党の関心は合意後の民主党の“分裂”に移行しつつある。首相・野田佳彦の姿勢は明らかに「反対派の離党やむなし」である。こうした土壇場状況の中で出てきたのが、もっぱら政局を糧として生きる政治家達の“うごめき”だ。鳩山は自身のグループで「何のために消費税を増税するのかがまるで欠落しており、このままでは国民が納得するはずがない。今の野田政権は考え方が転倒しており、われわれとして何ができるか考えながら、行動で示していく必要がある」と“決起”を促した。だがこの鳩山の主張は、相も変わらぬ「方向音痴性」に満ちあふれている。「何のために増税するか」などと今頃言い始めているのは、問題が自らの能力の許容範囲を超えていることを物語る。いまごろ破たんしたマニフェストにすがるようでは、「まるで欠落している」のが、自分の脳細胞であることが分かっていない。
一方で繰り返される小沢の発言は「国民への冒涜、背信」だ。14日も「政権交代で主張した、いろいろな政策をかなぐり捨てても、消費税の増税を実現しようという向きがあると聞いているが、それはわれわれ自身の自殺行為であり、国民に対する冒とく、背信行為だ」とボルテージを最高レベルに上げた。しかし国民の方は「待ってくださいよ、小沢さん」と言いたいだろう。自らの政治資金で4億円ものカネの動きを「知らない」で通すのが、国民の政治家への信頼に対する冒涜でなくて何なのだろうか。背信そのものでもある。これを言ってもカエルの面になんとやらで無駄だろうが。その2人が14日会談して「民主党が政権を取ったときに約束したさまざまな公約が、棚上げされそうになっている。このまま消費増税だけに突っ走ることになれば、国民がとても納得できる話ではなく、そうなれば法案には賛成できない」(鳩山)という点で一致した。マニフェスト至上主義者の2人が総選挙で「政権を取れば16.8兆円がひねり出せる」とするばらまき公約で国民を欺いたものの、馬脚が現れて消費増税の選択しかなくなってきていることなど、知らぬふりだ。しかし、2人が反対で合意に達しても、“勢い”が見られないのはなぜか。鳩山が「野田君に直談判する」と息巻いても、小沢は「おれも野田君に言ったんだが、言うことを聞かない」と乗り気を示さなかったと言われる。野田のぶれない勢いに気圧されているのだ。
小沢の脳裏には昨年夏に鳩山から食らった苦い経験がよぎっているに違いない。小沢と鳩山は自民党が提出する菅内閣不信任案に乗ろうということで一致していた。ところが鳩山が菅との会談の結果を踏まえて、小沢を裏切ったのだ。鳩山は不信任案採決当日である6月2日の代議士会で「民主党がバラバラに見えてしまっては、国民から『何をやっているのか』とそしりを受けてしまう。一致して行動できるようにしたい」と小沢に置いてけぼりを食らわしたのだ。小沢にとって、鳩山は信用出来ないし、頼りにもならない。しかし利用できるうちは利用したいという魂胆があるに違いない。背景には、小沢が信奉する“数の力”がある。ルーピーでも数のうちなのだ。小沢と鳩山が一致すれば、中間派も反対に向けて雪崩を打つという読みがあるのだ。小沢は野田がもう説得しても聞く耳持たずに、自民党と共に増税に突っ走ると読み切っているのだろう。しかし野田は、反対派を切る事態となれば、解散を決断することは間違いない。その場合は、ただでさえ8~9割が落選する小沢チルドレンや鳩山グループに刺客を立てて、血で血を洗う激突も辞さないだろう。既に始まっている多数派工作の中で、チルドレンや鳩山グループにも迷いが生じ始めていることも確かだ。「民・自合意」は滔滔(とうとう)たる消費税成立への流れである。小沢は取り残され、孤立したのが実態だ。総選挙の結果までのスパンで判断すれば、小沢の1人負けと「鳩山落選の危機」が濃厚であり、両者にとって展望はない。
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