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2012-06-07 06:52
「決着先送り」に修正協議“妥協”の芽
杉浦 正章
政治評論家
新聞論調は口を揃えて、民主・自民両党による「税と社会保障をめぐる修正協議は難航必至」と決めつけているが、果たしてそうか。記者達は安易ではないか。「難航」と書けば、物事を理解しているように見える。それだけではないのか。鳥瞰図で見れば、「修正協議入り」というのは消費増税法案で民・自が一致しているからできるのであり、社会保障部分はいわば小骨だ。小骨が消費増税法案という背骨を動かせるかだ。その方が難しい。「難航」より、むしろ「展望が開けつつある」と見る判断が正解だと思う。その展望とは意外にも“決着先送り”という“合意”なのだ。修正協議は確かに自民、民主両党の基本路線にかかわる協議である。自民党は年金に関して「自助努力」をまず前面に押し出す保守的価値観を重視している。一方、民主党は7万円の最低保障年金が象徴する社会主義的「ばらまき」政策が基本だ。このまま双方が「撤回せよ」、「いやし撤回しない」となれば、路線上の激突コースであり、それなら最初からやらない方がよいのだ。「難航必至」なら、とても実質1週間で達成はできないことを意味する。しかし、両党共に妥協点を目指そうという機運が芽生えているのだ。それも時間がなさ過ぎるから、一見綱渡りに見える打開策に頼るしかない。
まず、折衝の焦点は、3つに絞られる。民主党の掲げる最低保障年金制度創設および後期高齢者医療制度廃止と、自民党の主張する消費増税に伴う弱者救済のための軽減税率の是非だ。交渉役の1人の自民党元環境相・鴨下一郎は「既に歩み寄れるところは歩み寄りましょうと、かなり寛容な助け船を出している」と述べている。「寛容な助け船」とは何かといえば、簡単に言えばいずれも「論議先送りという決着」の流れだ。自民党が「最低・後期両制度」で提案しているのは、民間有識者による「社会保障制度改革国民会議」で1年かけて話し合えばよいという、いわば激突回避の棚上げ方式である。また軽減税率についても幹事長・石原伸晃は「8%への引き上げ段階でなく、10%の時点で考えることだ」と実施時期を2015年以降に設定すると共に、「税の問題は複雑だ。1、2か月で到底結論が出るわけはない。年末の税制改正まで先送りするしか解決策はない」とのべて、年末までの先送りに応ずる構えを見せている。
一方で民主党側はどうかと言えば、交渉に当たるのは、税制調査会長・藤井裕久、元厚労相・長妻昭らだ。藤井はバリバリの消費増税論者であり、確実に“妥協”へと動く。消費増税法案のためなら自民党への“抱きつき”も“丸のみ”も含めて、何でもするという構えだ。問題はミスター年金こと長妻だ。長妻は後期高齢者医療制度廃止法案を作成し、最低保障年金制度を一体改革の柱に据えるよう党内で強硬に主張した張本人でもある。幹事長・輿石東が交渉役に据えたのも“ぶちこわし”が狙いであることは言うまでもない。幸い元代表・小沢一郎とは近くなく、中間派に属するが、首相・野田佳彦にとって中間派まで敵に回しては成るべきものも成らない。中間派の取り込みがまさに焦点なのである。したがって、長妻が何を言うかは、修正協議を方向付けると言っても過言ではない。ところがその長妻が、6月6日深夜のテレビ朝日の報道ステーションで重大発言をしたのだ。「最低保障年金も後期高齢者も取り下げないで協議することが前提だ。それでないと協議にならない」としながらも、「妥協すべきところは妥協するのが、与党としての責任だ」と発言したのだ。そして具体的に自民党が主張する国民会議に言及して「1年間かけて自民党とゆっくり協議する。合意点の議論とは切り離す」と述べたのだ。この発言からは大方の予想に反して、修正協議をこじらせようとする意図は見られない。むしろ決着指向と分かった。これは大きい。もちろん野田は国民会議に前向きだ。
一方で、自民党は総裁・谷垣禎一らが「最低・後期両制度」の撤回を主張してきたが、当事者らは修正協議に入るに当たって大きく軟化し始めた。キーマン中のキーマンは衆院一体改革特別委員会筆頭理事の伊吹文明だ。その伊吹が6日「最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止は法律が出ていない。したがって取り下げる必要は全くない」と主張したのだ。伊吹は民主党がマニフェストの根幹部分で譲歩することは困難と見て、大きな助け船を出したことになる。伊吹も「国民会議」での先送り論者なのである。自民党内は石原幹事長がかねてから「いったん修正協議が始まれば時間はかからない」と述べていたが、少なくとも政策面では曲折をたどりながらも妥協が進展する流れであろう。流れが進めば、衆院での消費増税法案可決が視野に入ってくる。しかし、ここで問題になるのが政局だ。依然として「話し合い解散」の是非が、最大の破壊要因として存在し続けるのだ。さすがに輿石は、首相・野田佳彦に経団連で大恥をかかせたのはまずいと思ったか、6日一転して「21日までに採決する」方向を明らかにした。だが、「解散阻止」では全く変わらない。ここで対応を一任された自民党総裁・谷垣禎一が判断を迫られるのは、「話し合い解散」を延長国会への“継続審議”とするか、衆院段階できりきりと野田を追い詰めて、すべてご破算にするかの選択だ。おそらく8月までの延長国会での勝負しか、選択肢はないと見る。
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