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2012-05-14 06:48
輿石発言で衆参ダブル選挙は消えた
杉浦 正章
政治評論家
首相・野田佳彦の政治家としての致命的欠陥はその人事にある。人事の想像を絶する稚拙さが、すべてブーメランとなって自分の身に降りかかってきている。問責可決の防衛相人事などは言うに及ばずだが、今度は幹事長・輿石東だ。元代表・小沢一郎の側近中の側近と見られていたにもかかわらず、幹事長に据えて、「やっていけるのか」と案じていたが、そのとおりになりつつある。できもしないダブル選挙発言で、野党ばかりか党内からも総反発だ。自民党は輿石をまさに“敵視”しはじめた。輿石は2010年1月に鳩山由紀夫と小沢について「この2人を見て、こんなに優しい人がなんでこんなにいじめられるのか。悔しい気持ちもある」と発言している。「すべての原点は、ここにある」と言ってよい。ばりばりの“小沢一派”なのだ。幹事長就任早々は鳴りを潜めて、慎重な振りをしていたが、いよいよ消費税政局がやっちゃ場のようにになってくると、その本性が現れ始めた。輿石の最近の言動からその正体を分析すると、小沢べったりの姿勢がすぐに浮かび上がる。政局のすべての重要ポイントにおいて「親小沢」であるのだ。
まず「野田か、小沢か」では、小沢。「話し合い解散か、ダブル選挙か」では、小沢の好きなダブル選挙。「通常国会延長か、消費増税法案継続審議か」では、継続審議。「国家優先か、民主党内事情優先か」では、民主党内事情。といった具合で、すべては小沢の利益につながる判断を下し始めたのだ。小沢の党員資格回復などは、輿石に取ってみれば、思案以前の既定路線であったのだろう。こうした中で、「私に解散権はないが、来年7月には参院選がある。ダブルでいいじゃないか」との発言が飛び出したのだ。政局の流れを見ていれば、なぜ発言したかが容易に分かる。輿石は野田と小沢の会談実現で動いており、小沢を説得するためには、小沢が恐怖感を抱く早期解散を否定しておく必要があるのだ。小沢を安心させて、野田との会談を実現しようというわけだ。小沢に配慮と言うよりも、小沢の代弁をして見せたのだ。だが、この発言は小沢だけを見ていて、政治の流れを見ていない。「小沢を取って、野党を捨てた」ことになる。輿石に「政治家」としての“ありよう”を求めるのはもともと無理で、本質は「政治屋」なのだ。米国で上院議員とアーカンソー州知事を務めたジェイムズ・ポール・クラークは「政治屋(politician)は次の選挙のことを考える。政治家(statesman)は次の世代のことを考える」と言う有名な言葉を残したが、まさにぴったり当てはまる。
まず党内から反発が生じた。政調会長・前原誠司は「解散・総選挙というのは総理が決めることなので、ほかの者が総選挙の時期を口にするということは、遠慮した方がいいのではないか」と正面切って反発した。一方、自民党の元官房長官・町村信孝は「輿石氏は、党内融和だけを考えて、自民党との関係はどうでもいいと思っている。傲岸不遜(ごうがんふそん)で不適切な発言で、消費税に協力してほしいと言われても、だれが信用するか」と切って捨てた。今後、自民党は「輿石相手にせず」を基調として国会に臨むだろう。早期解散戦略も一層激しさを増す。政調会長・茂木敏充も、「自民党に『協力してほしい』と言う一方で、『協力はいらない』と言っているようなもので、握手を求めながら、左フックをくらわす状態だ」と発言した。あらゆる手段を使って今国会の解散実現を目指すに違いない。輿石はやぶをつついて蛇を出してしまったのだ。この政治情勢下において、ダブル選挙はあり得ない。マスコミも暫くすると政界の体たらくにあきれて「消費税を成立させて、国民に信を問え」と言い始める。「小沢切り」を要求している自民党にとって、輿石が「小沢の傀儡(かいらい)」(自民党幹部)であることがが明白になった以上、強硬策に出ざるを得まい。
消費増税法案の成立に政治生命をかけて臨む野田にとって、政権の柱とも頼むべき幹事長が野党の信頼を失ってしまったのは大きい。野田にとっては「小沢切り」の前に、輿石を押さえ込めるかどうかが当面最大のカギとなってしまったのだ。元官房長官・野中広務がテレビで「日教組のドンだかなんだか知らないが、古い形の政治家は排除すべきだ」と「輿石切り」の勧めを説いていたが、野田最大のミス人事がたたりにたたっている。自民党総裁・谷垣禎一が「野田総理大臣のとるべき道は、党の分裂を避けるために小沢元代表の軍門に下って先延ばしするか、野党に協力を求めて、成就させるか、の2つに1つだ。野田総理大臣は腹構えを示すべきだ」と決断を迫っている。その通りの事態となった。
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