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2012-05-09 06:53
「輿石主導」では消費増税までが危うい
杉浦 正章
政治評論家
消費増税法案の審議が始まり、いよいよ野田政権にとって「ガチンコ勝負」(自民党総裁・谷垣禎一)の段階に入った。図式は、首相・野田佳彦と元代表・小沢一郎の対決の構図に、自民党総裁・谷垣禎一の「話し合い解散」路線が絡む三つどもえだ。その展望は、政治家の表向きの発言だけをとらえて判断すると間違う。野田の「政治生命をかけると言った言葉に掛値はない」発言が本物か。本当にその指導権を発揮できるのか。小沢の消費増税法案反対に“揺らぎ”はないのか。大転換して賛成に回る可能性はないのか。これらを見極めなければ展望は見えない。後半国会は「何でもあり」と見なければなるまい。時間が足りず、大幅会期延長は不可避だろう。野田は駅前演説で訓練しただけあって、演説が“お上手”だ。「掛け値はない」発言も意気込みを表現するには十分だ。だが、最近ではこれが“巧言令色”に見えてくるから不思議だ。その原因はと言えば、自らのリーダーシップが発揮できていない事が挙げられる。まず、小沢の“執事”役の幹事長・輿石東に完全に党運営の主導権を奪われていることだ。島倉千代子の歌ではないが「想わぬひとの言うまま気まま」なのだ。まだ控訴が確定しないうちから、小沢の党員資格回復を容認してしまった。原発再稼働も方針決定までは威勢がよかったが、その後は揺らいで、原発ゼロが継続している。これで本当に消費増税を達成できるのか、という気分にさせてくれる今日この頃なのだ。
輿石はそういう野田を間近に観察して、逐一小沢にご注進に及ぶ。小沢は野田の心理など手に取るように分かるのだろう。輿石は野田の「政治生命」発言についても、「実感がわかない」と漏らし、せせら笑っているかのようである。野田はこの辺で巻き返しをしないと、完全に輿石ペースにはまり、消費増税法案は廃案か継続審議へと追いやられることが分かっていない。問題は、トライアングルの一角谷垣の方にもある。谷垣は「土俵に上がる前に、『最後は俺はうっちゃりをかけるから』などという談合はしない。国会でがっぷり四つに組み、最後に上手投げか、すくい投げか、うっちゃりが出てくるか、ガチンコ勝負をしなければならない」と述べている。この土俵に上がる前は「談合はしない」ということは、上がった後ではする事を意味する。谷垣にとっては「話し合い解散」が垂涎の的なのだ。谷垣は「谷垣降ろし」を回避するためにも、今国会で解散に持ち込むしか手はないのだ。最後は野田と手を組むしかないと見る。谷垣にとっても、野田にとっても、小沢の攻勢を回避するためにも第2次極秘会談が不可欠であろう。極秘でなくても、公式の会談でもいい。腹を割って話さなければ、確信を持った対応は出来ない。
こうした中で民主党内では、小沢が嵩(かさ)にかかって攻勢に出るという見方が強い反面、意外なことに「小沢が復権して余裕が出てくれば、消費税反対一本やりを変えるかも知れない」という見方も生じている。小沢にとってみれば、大量の「落選必至チルドレン」を抱えており、どうしても解散・総選挙を遅らせて自らの“延命”策を見出さなければならない。そのためには9月の代表選で自分が立候補するか、ダミーを立てるかは別にして、野田に代わりうるという姿勢を常時表明し続けなければならないのだ。反面、野田を怒らせて解散権を発動させてしまっては、元も子もなくなる。解散・総選挙を代表選以降に持ち込みたいのだ。消費増税法案などは、小沢にとって政局のための“道具”にすぎないのだ。
では、小沢が賛成に回った場合はどうなるか。まず野田の「話し合い解散」を封じることが出来る。民主党の分裂を回避して、体制内闘争に持ち込める。要するに、谷垣を出し抜けることになるのだ。小沢は「超高齢化社会の中で消費税の議論を否定するわけではない」とも述べており、「棒を飲んだような絶対反対一本やり」と見ると間違う。もっとも、この構想の最大の欠陥は、衆院を通過させても、ねじれの参院があって、成立させられないことだ。「そこに輿石の出番がまたある」と民主党筋は述べる。衆院を通して、参院段階での消費増税法案継続審議に持ち込めばよいというのだ。そして代表選を経た上での秋の臨時国会へと先送りしようというのだ。しかし、この参院での継続審議構想などに、野田が乗ったら、足元をすくわれる可能性が高い。だから野田周辺は「廃案でも解散。継続でも解散」と漏らしているのだ。いずれにしても、終盤国会は様々な動きが生じて、百鬼夜行の状態となる。そのような状態が生じるのは、野田が政局の主導権を確保出来ていないところにある。野田はここで言葉だけでなく、輿石を切るくらいの迫力で褌(ふんどし)を締め直してかからなければなるまい。さもないと、消費増税法案成立で後世に名を残すどころか、前元2代にわたる暗愚宰相と同列に置かれることになる。
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