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2012-01-25 07:02
野党演説を引用したのは、腹をくくった証拠
杉浦 正章
政治評論家
首相・野田佳彦の施政方針演説の焦点は「何故かつての野党党首の演説を引用したか」に尽きる。どうも野田は解散・総選挙に向けて腹をくくったように見える。なぜなら前代未聞の引用は、対野党的には逆効果であり、まさに“けんか”を売ったことになるからだ。野党は代表質問で過去の野田発言の虚飾を突き、国会は泥仕合の混戦になるのは目に見えている。消費税国会の成り行きを予測してか、元民主党代表・小沢一郎は「6月解散」に照準を定めた。まるで選挙が始まって街頭演説の第一声を発したようなストレートな内容に満ちていた。特異とも言える施政方針演説のさわりは、福田康夫と麻生太郎の首相時代の施政方針演説を逆手にとったことだ。まず福田が4年前に「与野党が信頼関係の上に立ってよく話し合い、結論を出し、国政を動かすことこそ政治の責任だ」と発言したこと。ついで麻生が3年前に「持続可能な社会保障制度を実現するには、給付に見合った負担が必要だ」と発言した点を取り上げたのだ。
そして野田は「私が目指すのも同じだ」と強調し、「政局より大局を」と訴えたのだ。“奇策”とも言える野田演説に、さっそく麻生は「いいとこ取りで、ボクシングで言えばクリンチされている感じ」と反発、福田も「いいこと言っているようだが、民主党は全く違う」と、苦虫をかみつぶしたような反応だ。野田のこの発言は、自分自身の発案により練りに練ったものだという。発言が、与野党の溝を埋めるどころかかえって深めるという、逆効果になることは自ら百も承知であったに違いない。それなのに何故直球をぶつけたかだが、背景には消費増税をめぐる与野党協議がにっちもさっちもいかなくなり、当面協議実現を断念せざるを得なくなった背景があろう。野田は自民党が参院選の公約に10%引き上げを公約にしていながら、政局のために「反対のための反対」をしている姿を浮き彫りにしたかったのである。
野田は施政方針演説が国民に訴える効果を十分に計算して、野党に呼びかけると言うより、国民世論に消費税をめぐる思惑の違いを鮮明にしたかったのだ。マスコミ・世論対策を狙ったのであろう。これはとりもなおさず、施政方針演説の「街頭演説化」に他ならない。街頭演説では他党党首の発言を引用して攻撃するのは、選挙に突入すれば日常茶飯事である。野田の姿勢からは、与野党協議実現への戦略・戦術を熟慮すると言うより、国民に直接訴える方を選んだことがうかがえる。その延長線上には、今国会中の解散・総選挙も辞さぬ構えが見て取れるのである。民主党単独での消費増税法案国会提出も視野に入れたのだろう。しかし、世論の反応は芳しくない。朝日新聞は「気合い十分、説得力不足」と題する1月25日付け社説で「自民党の演説を引用したのは余分だった。民主党の野党時代の攻撃的な言動を問い返され、またしても与野党の泥仕合を招きかねない」と危惧(きぐ)している。
確かに動画サイト「YouTube」で話題になっているのが、野田自身の街頭演説での自民党政権批判発言だ。「マニフェストに書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか。書いてあったことは4年間何にもやらないで、書いてないことは平気でやる」と自民党を攻撃しているのだ。マニフェストに書いてない消費増税を平気でやろうとしているのは野田自身であり、この“好餌”に野党が飛び付かないはずはない。今後、代表質問や予算委質問の絶好の材料となって、確かに国会は泥仕合となるのだ。こうして、与野党正面衝突のコースが定まってきた。その政局を読んだのだろう。小沢が2日間にわたり新人衆院議員らを自室に招いて、選挙に向けての発破を掛けている。24日も「6月をターゲットにせざるを得ない」と会期末解散・総選挙の可能性に言及、準備を急ぐように指示した。小沢は「無党派層対策をしないと駄目だ」とも述べたと言うが、無党派層の浮動票の流れは、今度ばかりは野党に向かうだろう。消費増税という不人気政策を掲げて、民主党に風が吹くことはまずあり得ないからだ。小沢チルドレンがいくらあがいても無駄だ。
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