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2011-12-12 09:10
ウオール・ストリートから「自宅を占拠する」運動への展開
島 M. ゆうこ
エッセイスト
「ウオール・ストリートを占拠する」運動は、先月中旬には全国各地で相次ぐ警察の弾圧に遭遇し、この運動の最初の場所となったマンハッタンのズコッティ公園をはじめ、米国各地でテントや野宿用設備が暴力的に撤去されたため、かなり簡素化され、表面上弱体化したような印象もある。しかし野宿は禁止されたものの、デモ参加そのものは許可されているため、自然消滅するような気配はほとんど感じられない。米国各地で、冷え込んできた今日、陣地を奪われた抗議活動者らは、その視点と戦略を変えたようだ。12月6日には、個人的対面を避けている議員らとの直接面談を目的とし、ワシントンDCの国会議事堂付近に移動して、多くのデモ参加者が座り込みを開始した。更に、「自宅を占拠する」と称し、特に、抵当倒れで空き家になった住宅の多い区域で、銀行または金融会社に家を差し押さえられて、自宅を失った人達を再入居させる運動が起きている。
失った家の所有権の回復を希望し、ローンの修正や変更に関して銀行との交渉を試みる人たちも多く存在する。しかし、銀行がこれに応じない場合、家を失った人たちは貸し手である銀行及び金融機関の不合法な住宅売買契約を盾に、自宅を取り戻す戦略を開始した。抵当倒れで空き家になっている住宅には板が張られている場合も多いが、「ウオール・ストリートを占拠する」活動家らは、近年相次ぐ抵当倒れに対抗するため、放置された空き家の廃墟化を防ぎ、売買オークションを阻止することで、不条理な住宅売買契約の犠牲となった人たちを援助している。12月9日の『CNN 』によると、東ニューヨークにあるブルックリンのバーモント通りは、全米で最も抵当倒れの率が高く、空き家が多いらしい。長年、ひどい自閉症を患っている8歳の女児と5歳の男児を抱え、仕事探しに葛藤しながら、ニューヨーク市の収容所を出たり入ったりの生活を長年続けているタシャ・グラスゴウは、2人の子供を育てるための安定した収入も、家もない。彼女は最近、ニューヨークの行政から収容施設への入居を許可されたが、後日、ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏の「厳格な政策」によって入居が取り消しになった。今週、「ウオール・ストリートを占拠する」活動家らは、現在、バンク・オブ・アメリカが所有しているバーモント通の空き家にグラスゴウ家族を入居させることに成功した。
活動家らにエスコートされて、再入居に成功した人達の正確な数値は明らかにされていないが、彼らは「ここが自分達の家であり、生涯立ち退くことはしない」と強い決意を語っている。その理由は、当初ローンを組んだ際,貸す側が借りる側に、高金利の「リスク・ベース価格」などを含めた不公平なローンの条件を課す「略奪的ローン」を意図的に設定したため、非合法であるとした論争が起きているからである。ローンの債務率が所得の50%を超過した場合、通常そのローンはかなりのリスクを伴うはずであるが、楽観的な住宅価格上昇の予想、小額の頭金、当初の低利息などの魅力とは裏腹に、様々な角度からの調査と法的研究が欠如し、数年後法外な高金利を設定した金利変動相場制で「余裕のない抵当権設定の住宅ローン・プログラム」に契約した人たちは、抵当物件差し押さえのリスクを予測することができず、一方、貸す側は予期していたと言われている。サブプライムローン危機は2007年以降、抵当倒れが相次ぎ、現在でも家を手放す人が後をたたない。12月7日の『The Nation 』誌によると、2007年以降、全米で約600万戸の家が差し押さえられており、今後4年間で更に800万戸が抵当倒れになると推定されている。また、『CNN』の報告では、銀行の集計によると、昨年だけでも380万戸が抵当倒れになり、今年度の数値は更に上昇することが予想されている。
このような予測に反して、「自宅を占拠する」運動が長期化する可能性があれば、抵当倒れをかなり食い止めることが可能であると考える。なぜなら、抗議デモの活動家らは情報技術の駆使に長けているため、最近はメディアがかなり注目するようになってきた。それに伴い、弁護士にたいする協力要請拡大の可能性が増し、現在では住宅ローン不正手段に関する専門家の教育および支持が目立つようになり、訴訟を行い易い環境になってきている。自宅を差し押さえられる前に訴訟に成功するケースが増えれば、抵当倒れの率は減少するはずである。また、小規模ながら活動家に基金や活動の拠点を提供する人達も存在する。これまで激しい警察の弾圧が続き、野営地を奪われても、マンハンッタンのオフイス街の事務所を提供する個人も存在し、物資的協力をする影の力が台頭している。このような状況から、崩壊したシステムの改善に向けて、情熱を傾注する活動家が生き残る土壌が水面下で構築されつつある。米政府は、1960年代から連邦準備制度の下に多数の金融規制法案を提案し、または通過しているが、こと金融規制に関しては、今だにグレイ分野が多く金融システムはほぼ崩壊していると言える。2008年にブッシュ前政権下で制定された緊急経済安定化法案により、世界経済の悪化を懸念し、サブプライムローンでかなりの損失に追い込まれ、その原因を作った銀行や金融機関の救済は優先されたが、家を失った庶民には何らの救済措置も講じられていない。このような弱者を救うため「自宅を占拠する」運動を展開している活動家らは、このグレイの領域に明白なメッセージを伝えている。
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