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2011-09-27 07:00
「どんでん返し」判決、野田政権を直撃
杉浦 正章
政治評論家
小沢一郎の元秘書3人への有罪判決が意味するものは、「無罪」と信じ込んでいた永田町にとって、「どんでん返し」を意味する。小沢側にも接近して勢力均衡人事を行ったばかりの首相・野田佳彦は、即座に小沢支持勢力と野党・国民世論の板挟みの状況に置かれた。前首相・菅直人と同様に、小沢離れを鮮明にするかどうかの選択を迫られる。しかし、党の実権を小沢腹心の幹事長・輿石東に握られて、対応は容易ではない。有罪判決は、来年春に予定される小沢裁判の判決にも大きな影響を与えることは避けられず、代表への復権を視野に置いていた小沢戦略に決定的な打撃となった。陸山会事件裁判をめぐって最近の永田町に流れていた空気は、「無罪判決」であった。その根拠は東京地裁が6月30日付け決定書で検察側の提出した多くの調書を採用しなかったことにある。とりわけ小沢の関与を示す唯一の直接証拠である「収支報告書への虚偽記載を小沢氏に報告し、了承を得た」という内容の衆院議員・石川知裕の供述調書の証拠採用を却下したことが決定的だった。
小沢弁護団からは、小沢の強制起訴に関して「起訴を取り下げた方がいいのでは」という高笑いが聞こえていた。調書不採用は永田町の無罪推定に直結したのだ。「秘書が無罪となれば、小沢も無罪となる」という見方が支配的となり、小沢の政治活動を有利に導いていた。これを受けて小沢は、来年の4月と予想される判決公判で無罪を勝ち取り、同年9月の代表選挙で勝って、首相への道を切り開くことに照準を定めた。「ポスト菅」への影響を一段と強めはじめ、8月の野田との極秘会談でも人事、政策両面で相当の注文を付けたと言われている。かねてから小沢に批判的であった野田は、事実上小沢との融和に転じた。小沢側近の輿石を幹事長に起用し、復興増税での消費税導入を断念して、小沢にすり寄ったのだ。もし有罪判決が出るという見通しがあったら、小沢の党員資格回復を公言する輿石を幹事長に起用することはまずあり得なかったであろう。しかし地裁の「豹変判決」で事態は一変した。野田は人事上の大誤算をした。
その証拠に輿石は、早くも小沢らの証人喚問や辞職に真っ向から反対、野田の選択範囲を狭めているのだ。判決が10月6日から開始される小沢公判にむけて重大な影響を及ぼすことは避けられない情勢となった。というのも、小沢の裁判は元秘書の裁判と証拠の多くが重なっているのが実態である。その上、今回の判決の例に見られるように、状況証拠を採用する最近の裁判の潮流からいっても、小沢が無罪で逃げ切れるかどうかは極めて怪しくなってきたからだ。むしろ判決は、小沢に不利に働く可能性が強いと見るべきだろう。おりから、総選挙が接近してきている中で、刑事被告人・小沢の、限りなく贈収賄事件に近い裁判とその一挙手一投足が報道され続けることになる。一時は離反した小沢グループの若手議員も、小沢の復権を信じて戻り始めていたが、有罪判決はその復権の夢を打ち砕いたのだ。個個の議員は当然選挙区からの批判にさらされて、小沢グループには遠心力が作用することになる。小沢のリーダーシップの弱体化は避けられない流れとなって来た。
9月26日から始まった予算委員会初日は絶好のチャンスでもあったにもかかわらず、自民党幹事長・石原伸晃のかったるい質問に終始したが、新聞テレビのトップ報道に後押しされて、27日からは「政治とカネ」が最大のテーマとして再浮上する。野党は嵩(かさ)にかかって単に石川知裕の議員辞職勧告決議案上程だけでなく、小沢一郎の証人喚問、議員辞職へと事態を発展させて、政権を揺さぶる構えである。小沢は“外堀”だけでなく、“内堀”も埋められつつある状況となった。一方で野田は、菅直人がそうしたように、小沢離れをして支持率を維持したい誘惑にかられるだろう。しかし、小沢グループを完全に敵に回すことは不可能に近い。輿石を幹事長に据えた大失策を悔やんでも遅い。党の実権を握られていては、小沢離れも出来ない。従って、澎湃(ほうはい)たる世論とのはざまでもがき苦しみ、政府・民主党ともに泥沼に沈む状態となりかねないのだ。野田政権は、内政では復興増税といった難問を抱え、外交ではオバマ発言による普天間問題が再浮上。加えて、小沢の「政治とカネ」の復活だ。鳩山由紀夫、菅が直面した民主党の抱える“業”を、野田も抱えることになったのだ。八方美人のいい顔ばかりはもうできない。
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