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2011-09-15 07:51
「逃げ」に撤した野田の所信表明演説
杉浦 正章
政治評論家
どじょうを包むヌルヌル成分は、ムコプロテインと言って、細菌や寄生虫から魚体を守るバリアーの役割があるが、国会にどじょうはこれを塗りたくって出てきた。本会議代表質問では自民党総裁・谷垣禎一が何とか捕まえようとするが、首相・野田佳彦はバリアー効果でぬるりと抜けて、しまいには「泥もぐり作戦」ときたものだ。一見谷垣が“上ずった”ように見えるが、指摘の方はピシリと決まっており、「逃げ」を浮き彫りにしただけでも、谷垣の勝ちだ。「逃げの政治」はいつまでも持つものではなく、支持率の低下を招き、解散綱引きに野田はやがて負けるだろう。代表質問を録画してチェックしたが、根底にはやはり「早期解散」と「解散回避」をめぐる戦いがある。谷垣にしてみれば、不人気な菅政権のままで「菅の手解散」が最良な選択であった。しかし野田で支持率がV字回復してしまって、はじめからやり直さなければならなくなった。そのことを象徴したのが代表質問だった。
従って、まず国民の前に民主党政権の実態を暴露して、支持率低下を目指す作戦に出た。谷垣は政権交代を「変わったのは、表紙だけ。野田首相という表紙の下は、薄っぺらな紙がバラバラに積み重なっている」とまずこき下ろした。さらに鳩山由紀夫、小沢一郎、前原誠司、野田らの名前を挙げて、「政治とカネ」の問題は民主党の「風土病」と形容した。破たんしたマニフェストについても、「夢と空論がことごとく採用された。マニフェストでうそをついて政権を簒奪(さんだつ)した」とまで言いきって、「有権者におわびをしたうえでの解散」を要求した。野田の執着する大連立についても「まだ婚姻年齢にも達していない」とつれなく袖にした。谷垣が「民主党は党綱領を作れ」と主張したことについて、朝日新聞は9月15日付社説で「どういうことか」と疑問を呈したが、谷垣の主張は当然だ。党内が水と油の状態で調整がつかず、綱領を作って統一しようとしないところに、民主党の抱える全ての問題があることを、社説子は知らない。
谷垣にしてみれば、落選組を抱える派閥の長らから早期解散に追い込むべきだとの突き上げを受けて、苦しい立場に立たされている上に、「たった4日の国会」で怒り心頭に発しての追及で、いきおいボルテージも上がった。しかし、質問内容は練り上げられており、野党としては当然の主張に貫かれた。これだけ言われれば、菅直人だったら直ちにイラ菅ぶりを発揮して、攻撃型反論を展開するところだが、野田はあっけなくも「谷垣総裁から多岐にわたるご質問をいただきました。ありがとうございました」と感謝の言葉で対応した。「柳に風」でなく、「わしづかみにぬるり」でかわしたのだ。政策面については、郵政株売却に前向き姿勢を示したほかは、官僚作成の答弁を棒読みした。解散だけは、はっきりと「しかるべき時に国民の審判を仰ぎたい。少なくとも今は解散の時ではない」と早期解散を否定した。朝日は社説で、早期解散にも反対しているが、野田が代表になった後、8月30日付の社説で「野田氏は国民の信任を直接は得ていない。その正統性の弱さを忘れてもらっては困る。民意を問うために、政策実現の実績を積むとともに、新しいマニフェストづくりを急がねばならない」と早期解散論を打ち出したことを忘れきっている。
野田の基本姿勢は、低姿勢一点張りの「逃げ」に徹しているとしか思えない。政権発足当初の首相というものは、何とか独自色を出して、前政権より踏み出し、威力を発揮させようとするものだが、その片鱗も感じられなかった。鳩山、菅の2代連続の大失政政権を経験して、「羮(あつもの)に懲りて、膾(なます)を吹く」政治を志向しているとしか思えない。自民党など野党にとってはガードが堅くて、挑発すればすぐ失言する鳩山や菅などとは違った手応えを感じているに違いない。しかし、「逃げに徹する政治」では、この国の置かれた危機的な状況を突破することは出来ない。「4日国会」に象徴される、不自然なまでの逃げの構図は、必ずじり貧を招いて、閣僚不祥事も加わって失望を買い、次回調査から支持率を低下させるだろう。野田は民主党両院議員総会では、自らの所信表明演説について「閣議決定した文書を読まなければならず、自分らしさが出てないところがあったかもしれない」と反省の弁を吐露した。分かっているなら野田は、<一煮立ちしたら税増す泥鰌鍋>(読売川柳)でもいい、一内閣一仕事と心得て、堂々と持論の消費税増税を前面に出すべきだ。野党の要求する会期延長にも応じて出直すしかない。泥に潜ろうとせずに、泥をかぶる覚悟を示さなければ、国民の失望感は増す一方だろう。
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