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2011-09-02 07:34
野田はドジョウ流の“自民党政治”で自公にくさび
杉浦 正章
政治評論家
テレビ撮影の時から自民党総裁・谷垣禎一とは緊張感が漂い、公明党代表・山口那津男とは和気あいあい。首相・野田佳彦と自公党首との会談冒頭を見ただけで、流れが分かる。結果を見れば一目瞭然。野田の提案した3党協議機関設置で自公両党は賛否が割れた。解散戦略も自公で異なることが鮮明化した。野田は、事実上自公に“柔らかいくさび”を打ち込んだ形となった。今後、公明党は政策によっては賛成に回り「脱自民・入民主」を選択肢とする可能性がある。法案内容によっては、「ねじれの部分解消」が視野に入ると見なければなるまい。野田は、自民党政治に酷似した政治手法を取り始めた。見所は、会談を自公別々に行ったことだ。狙いは自公のスタンスの違いを鮮明にするところにある。野田が山口に、おそらく用意に用意を重ねたであろう発言をした。「公明新聞に首相は被災地に行くように書いてあった。いきたいと思う」と見事な“よいしょ”をしたのだ。山口は悪い気はしない。会談は解散の「か」の字も出ずに、和気あいあいに終始した。一方谷垣は、「震災の復旧・復興には協力するが、そこが終わったら、国民に信を問うのが基本だ」とはじめからけんか腰。ここで解散戦略をめぐる自公のスタンスが鮮明になった。野田の狙いの第1目標達成だ。
さらに、野田は3次補正、復興増税、円高で3党協議機関の設置を申し入れた。政策決定過程に自公両党との協議を組み入れるというもので、これにも山口は乗ったが、谷垣は渋った。公明党には、事前調整が働いていたといわれる。自民党には、協議機関に乗れば、ずるずると協調体制が続き、早期解散へと追い込めないという危機感がある。当然、野田はそこを読んでの提案だろう。党首会談後、自公両党は幹事長・国対委員長が対応を協議したが、自民党は慎重な構えを崩さなかったのに対し、公明党は前向き検討を主張、対応が割れた。自公には、くさびが入ったのだ。野田の人柄からどぎつさを感じさせない、柔らかいくさびだが、自民党にとっては放置しておけない問題をはらむ。この協議機関に公明党が乗ったのは大きいのだ。昨年公明党は、子ども手当賛成に回ったが、こんご政策によっては同様のケースがあり得ることを物語るものだ。3党間協議機関でなくても、民公協議は出来るのだ。野田は大変なアドバンテージを挙げたことになる。
谷垣の早期解散一本やりの強硬戦略は、ここにつまずいた形となった。だいたい公明党とは、自公連立10年の付き合いであり、相手の動きは手に取るように見えるはずだが、谷垣は見逃した。解散でスタンスの違いがあるのは、公明党は状況が変化すればすぐに変わるから、別に大きな問題ではない。しかし、協議機関提案を公明党のように事前に察知できなかったことは失態だ。協議機関で民公連携が積み重ねられては、主導権を完全に奪われる。3次補正までは自民党も協力するが、本予算での民公連携が実現すれば、自民党はねじれの意味がなくなり、置いてけぼりを食らうことになる。渋々ながら協議機関に乗って、ブレーキ役を演ずるか、指をくわえて民公連携を見守るかの選択を迫られた形だ。ここまで自民党を追い込んだ野田は、出だしにしては好調だ。経団連会長・米倉弘昌が「菅氏とは首から上の質が違う」と褒めたたえただけのことはある。前任者が駄目すぎて、後任が得をするケースは多いが、2代続いた暗愚・愚昧首相とは様変わりと言える。
様変わりの第1が「ドジョウ」が象徴する泥臭さで、パフォーマンスを感じさせないことだ。また組閣に先立つ異例の党首会談は、菅と違って「人の話を聞く」姿勢が際立つ。公明党との協議機関の事前根回しも、菅の唐突政治とは一線を画す。政治主導どころか、官僚重視の姿勢は、財務相時代に明白となっている。要するに、鳩山由紀夫と菅が余りにも民主党的なパフォーマンス政治に終始したのとは逆に、野田は自民党政治に近い手法を取り始めているのだ。その好例が政調会長を重視して、前原誠司に専念させ、法案、内政、外交など政府の政策決定においては、「政調会長了承」を前提としたことだ。まさに組織的にも、自民党政治そのものだ。米倉が「全面協力」を約したのも、財界の安心感を背景にしたものといえる。しかし「始めよければ、終わりよし」とは言えないのが、政治の世界だ。小沢一郎と輿石東が党をろうだんしつつある状態は、今後、増税、マニフェスト見直しなど急所で隙(すき)が生ずる事になる。小沢は、野田の“自民党政治”に、なにかと待ったをかける可能性が強い。その隙を自民党が突けるかどうかが勝負だろう。自民党にとって「ドジョウ宰相」は前任者達とは格段に戦いにくい相手であることがはっきりしてきた。
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