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2011-06-20 23:06
大震災1カ月後の公式メッセージがなかったことに違和感
池尾 愛子
早稲田大学教授
3月11日以降、海外の私の友人達の多くは、私からの連絡を辛抱強く待っていてくれた。電力供給が続いた地域では、インターネットは途絶えることなく利用可能であった。しかし、私の周りでは、大震災のタイミングと一部メールサーバの移行が重なったせいか、電子メールの不着が発生するなどのトラブルもあった。私の場合トラブルとなりかけたのは、論文集用論文の校正済み最終原稿をメール添付で送信したけれど、相手に届かなかったという事態が発生していたことであった。相手から受領の返事がないので、大地震直後の個人的体験(「帰宅難民」など)を書いて送ってみたところ、校正済み原稿が不着だったということがわかったのである。「大地震発生時に、何をしていたか」は正直なところ、ずいぶんパーソナルなことである。
日本国内にいる人たちには、おおよその事情は分かっている。けれども、海外の人たちには極めてわかりにくかったようである。大地震発生の数分後に海外から届いた安否確認のメールに私が回答したのは、2日後である。そのあたりから、一部地域の人々が発信する安否確認や救援提案の連絡を何度か受けることになった。ある海外機関から大地震の影響についての問合せを受けたときには、日本国内の状況全般は分かっているはずなので、とくに東京の状況や東北・関東地方の大学の対応について、詳しく連絡することにした。そのほか、海外から連絡があってもよさそうな案件について、不着の電子メールが発生していないかを確認するメールは送ってみた。はたして、彼らは私からのメッセージを待っていてくれた。
一方で、震災後間もない時期に海外から奇妙な依頼や提案を受けることがあった。断る場合には誰かを紹介してほしいという条件をつけられることもあった。(今なら、迷惑千万な話だと即座に断り切れる。)4月になっていたと思うが、身近な知合いたちと直接に話をしてみて、残念ながら、どうも他人の苦境を利用しようとしたり、誤解を拡散させようとしたりする人々がいるかもしれないと判断するに至った。その対策としては、こちらから積極的に情報発信するしかない、と結論した。そこで、同じ思いをもつ同僚や研究仲間と協力して連絡を取りながら、海外研究員の日本での受入れプロジェクトの申請期間の延長のニュース、日本での学会・研究会活動、日本人の組織する学会世界大会の準備状況などについて、問い合わせをしてきた人たちや海外の学会メーリングリストに発信した。学会メーリングリストのモデレーターも事情を分かっていてくれたと見え、リストとはさほど関係なさそうな内容でも、私の送った日本関連メッセージを寛大にもリストに流してくれた。
5月末になると、日本の大震災対応について緊急出版を行うつもりだという、海外の日本研究者のグループもいることがわかってきた。果たしてどのような内容になったことやら。海外から訓練を積んだエキスパートによる緊急支援を受けるほどの大きな自然災害に襲われた後、支援してくれた国々にメッセージを自発的に積極的に発信することは余りにも重要なことだと思う。それゆえ、大震災1カ月後の公式メッセージがなかったことに違和感を覚えた。そして私の周りにも、百日目のメッセージを心待ちにしていた人々がいたようなのだが、彼らは肩透かしを食ったような格好で、(海外の人たちは)酷く混乱したり、(国内の人たちは)大きなショックを受けたりしているようである。今からでも遅くない、という気がしている。しかし、ここでは自発的なメッセージが必要なのである。
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