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2011-06-13 07:27
野党は菅退陣と引き替えに赤字国債法案を成立させよ
杉浦 正章
政治評論家
筆者は半世紀の政治記者人生のうち、首相官邸にはいかなる首相より長く合計で12年間詰めたが、つくづく首相の座は魔性の吸引力があると思う。かつて紹介したように「首相をやって一年経つと、狐憑(つ)きが憑いたようになる」と田中角栄が漏らしていた。自分が何を言っているのかも、首相の椅子に逆さまに座っていても、分からなくなる時があるというのである。ましてや菅直人程度の政治家が1年経過すればなおさらであろう。恐らく首相の座に天地逆に、頭で座って物を言っているのだろう。与野党一致して「一刻も早く退陣を」の大合唱の中で、まだ8月までやるようなことを言う。まさにわびしく野垂れ死にする流れとなって来た。自民党はここまで追い込んだら、最後の切り札である、赤字国債発行のための特例公債法案の成立を計り、民主党を巻き込んで菅を“絶対的孤立”においこむしかあるまい。
無能な首相ほど自分の置かれている立場が分からなくなる。いわゆる裸の王様になる。そして自分が居なければ、日本がつぶれるような高揚感と錯覚のとりこなる。政治力、識見において菅などとは雲泥の差がある岸信介でさえ、政権末期には状況認識を誤った。60年安保で首相官邸の周りは、十重二十重のデモに囲まれた段階で、いわゆるサイレント・マジョリティ発言をして、ひんしゅくを買ったのだ。「国会周辺は騒がしいが、プロ野球が行われている後楽園球場、早慶戦の神宮球場は人でいっぱいだ。私には“声 なき声”が聞こえる」述べたのだ。これでかえってデモが盛り上がり、ついに退陣に追い込まれた。菅にも全く同様の心理がうかがえる。野党はおろか閣僚や党幹部からまで早期退陣論が聞こえる中で、官邸筋によるとただひたすら一部の世論調査だけを頼りにしているという。その世論調査とは、朝日が、不信任騒動後の6月5日に掲載したもので、退陣時期は「福島第一原発の事故収束のめどがついた後」が45%。「震災復興の補正予算が成立した後」が30%、「6月中」が18%と続く。原発冷温停止後の1月論を唱えた菅は「してやったり」ということだろう。しかしこの調査は3択の設問が政治の現実を知らない一般国民向けに落とし穴となっている。国民は、菅が半年以上政権を担当する弊害を聞けば、逆転したであろう。これを証明するように時事通信の調査では、首相の交代を求める声は68.8%に上った。他社の調査も、日経の内閣不支持率は62%、NHKの不支持率は55%など、同様の傾向を示している。
菅は、岸と同様にわらをもつかみたい気持ちで、自分にプラスの情報だけしか受け付けない心理状況に陥っているのだ。加えて最近は、大震災と原発事故を「人質」に取り始めた。全てを大震災のためと位置づけ、自らの延命のために“活用”し始めたのだ。「卑怯未練」とはこのことだろう。この首相を辞めさせるのは容易ではないが、突破口は、政府・与党首脳が、一致して特例公債法案の成立を条件にし始めたことがポイントだ。まず6月11日に「次のステップに踏み込むために身を投げ出していただくしかない」とあからさまに菅退陣を要求した官房副長官・仙谷由人が、12日のテレビで「特例公債法案を通すために『わたし(菅)が存在することが問題であれば、それを約束していただけるんですか』ということになる」と、特例公債法の成立を条件に提示したのだ。一方、国会対策委員長・安住淳も同日NHKで 「ぜひ、菅内閣で特例公債法案を成立させて、早晩決断していただく環境作りをしたい」と「早晩決断」に踏み込んだ。要するに与野党で特例公債法案を通してしまえば、菅を辞任に追い込めるという判断がある。菅も12日幹事長・岡田克也に「自らの責任において特例公債にメドを付けたい」と述べている。これを逆手にとるのだ。
特例公債法案に関連して安住は、今年度予算に盛り込んだ政策の一部の金額を減らす「減額補正」についても応ずる意向に踏み込んでいる。これに対し公明党国対委員長・漆原良夫は「こういうものを解決すれば、法案成立に賛同出来る」と賛意を示している。自民党が公債法案の成立を長引かせれば国益を毀損することは間違いなく、政治的大失策につながる。マスコミも確実に自民党批判に転ずるだろう。公債法案と引き替えに菅の早期退陣を得られるなら、与野党党首会談でも何でも開いて「特例公債法案成立イコール菅退陣」を確認すべきではないのか。それが国益に通ずる唯一の道だ。いずれにせよ菅退陣問題は今週の民主党両院議員総会や17日にも予定される復興基本法案成立を契機に、急場に入る。12日、仙谷は首相の退陣表明時期については、20日の消費増税と社会保障の一体改革案や25日の復興構想会議第1次提言などの取りまとめ時期を挙げ、「その辺で収斂(しゅうれん)してくる」と述べた。これは22日の国会閉幕を前に究極のデスマッチとなることを物語る。外堀も内堀も埋まった。将棋で言えばもう詰んでいる。菅は「私には53番札所から88番札所までお遍路を続ける御大師様との約束がある」と若干弱気の発言も見せ始めた。遍路にまでつき合わされてはボディガードの費用が大変だが、これは目をつむる。無駄な“長考”はせず、国のために早く辞めて欲しい。
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