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2011-05-27 10:42
「皆で渡れば怖くない」」から「転ばぬ先の杖」へ
湯下 博之
元駐フィリピン大使
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、既に多くの被害をもたらしているのみならず、今後についても今だに予断を許さず、東日本大震災を乗り越えて力強く立ち上がろうという国民の意欲に重苦しい影を落とすとともに、同事故のハンドリングをめぐる不手際は、日本の国際的イメージを大きく害することが懸念される。原発の安全神話が崩れたということが言われているが、今になって分ったことは、実は安全の保障があった訳ではなく、むしろ危険性を指摘する専門家の声があったのに、それに対して正当な注意が払われなかったということのようである。
「想定外」という言葉が頻発されたが、「想定」の仕方が適切でなかったのであれば、「想定外のことなのでやむを得ない」と言うことはできない。危機管理や危機対策についての外国の例に比べると、日本には甘さがあり、外国ではそこ迄考えて対策を立てているのかと感心させられる面がある。
もっとも、日本人も経験から学ぶことはできる。現に、今回の大震災においても、昔起った大津波の経験から生まれた「ここより低い土地には家を建てるな」という教訓が生かされていたという。原発の安全性についても、今回の経験や外国の例を踏まえて、万全を期したルールを作り、安心して原子力発電を利用できるようにすることは、可能な筈である。
危機管理の甘さが表面化したのは、東日本大震災によって生じた原発事故に限ったことではない。みずほ銀行のシステム障害についても、外部の専門家による調査報告書が公表されたと報じられたが、それによると「種々の要因が絡んで障害が起きたが、人的ミスの部分が大きく、欠けていたのは緊急時の危機管理策であり、2002年のシステム障害を教訓として組織として留意していれば、今回の障害は防げた」という。「皆で渡れば怖くない」という取組みでは、大規模災害は防げない。日本には「転ばぬ先の杖」という諺がある。この先人の知恵を生かして、冷静に対策を立て、安心して生活できる社会を作ることが大切であると思う。
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