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2011-03-28 07:35
メディアは「日本全国理科音痴」の“風評”源だ
杉浦 正章
政治評論家
メデイアの報道ぶりを見ると、原発事故で今にも破局が来るように感ずる向きが多いだろう。警鐘を鳴らすのはメディアの重要な役目だが、いささかセンセーショナリズムの度が過ぎるのではないか。今後の展開を冷静に予測すれば、チェルノブイリ型の臨界での大爆発の可能性はゼロに等しく、事態は一進一退を繰り返しながらも、冷却機能回復へと動いているように見える。確率としては少ないが、最悪の場合にはスリーマイル島事故のように炉心溶融で燃料棒が溶け出す可能性がまだ残っているが、爆発的な拡散はまず生じない。3月27日も2号機の水たまりで極めて高い濃度の放射性物質が検出されたが、あくまで外部への流出ではなく、冷却機能の回復に向けた作業の遅れが懸念されているレベルだ。復旧の長期化が予想される中で、メディアが作る「日本全国理科音痴」が風評を呼ぶ事態を、この際改めるべきだ。「正しい情報をいくら出しても、メディアが間違う」と原子炉災害の権威である長崎大学大学院教授の山下俊一が、27日のNHKの番組で嘆いている。
たしかに最大の影響力がある朝日新聞を筆頭に“風評源”とも言える記事が多い。同紙は、3月16日付けの朝刊で「福島第1制御困難」と、紙面を突き抜けるような大見出しで報じた。明らかに「お手上げ」を印象づけたが、その後制御は一進一退ではあるが進んでおり、この記事は、まず先頭切って決定的間違いを犯した好例だろう。山下教授は、風評被害について「非常に大きな問題だ。日本全国理科音痴ではないか。突然物理学の問題が出てきて、単位が分からないから何百倍、何千倍にもなって独り歩きする」と指摘している。風評に踊らされる人々を「放射能恐怖症」と名付けた。この「理科音痴」の原因は、政府が物事の根本を理解していないところにもある。不安感が募るのは、多くのメディアがチェルノブイリを引き合いに出して“脅す”ような報道を続けているからだ。臨界状態のまま“核爆発”して、世界中に放射能を巻き散らしたチェルノブイリと、制御棒が働いて、運転が緊急停止された福島とは、根本的に違うのだ。福島が再臨界に戻る可能性はゼロというのが専門家の共通した見方だ。ここを政府が明確にせず、「予断を許さぬ」(首相・菅直人)などといったあいまいな発言しかしないから、不安感がいつまでたっても消えないのだ。
ところが“風評”は、ついに東電の誤発表からも巻き起こった。ヨウ素1000万倍という数字である。そのままなら核分裂の進行と受け取られかねないものだったが、「再臨界がおきているはずはない」という専門家の指摘が続々とあり、調べ直して、訂正となった。恐らく東電も疲労の極致に達しているのだろう。判断力が鈍るのが一番危険だ。政府は、技術者、作業員などほかの原発からの応援態勢を早急に組むべきではないのか。今後の展開は、二つのケースに集約されよう。一つは、恒常的な冷却機能の回復による復旧である。他の一つは、最悪の場合メルトダウンが生ずるケースだ。作業員の被爆、海水やタービン建屋内の放射能の漏出が大きく報ぜられるが、これは核心的な問題ではない。遅かれ早かれ改善可能な問題であり、原子炉本体を直撃する本質的な「事態の悪化」でもない。まず冷水機能の回復は、海水注入から真水の注入に代わり、一歩前進した。今後の焦点は作業員3人が被爆した汚染水をとりあえず復水器に戻して作業環境を整え、敷設された電源を使用して、本来の冷却機能を回復することだ。これが実現すれば、よほどの事態がない限り、問題は解決へと進む。1号機では漏水の汲み上げがポンプ3台で始まったが、漏水が解決を遅らせることは確かだろう。
他の一つのメルトダウンは、何らかの理由で注水が不可能となって、燃料棒が露出して溶融に至るケースである。既にまだ冷却が出来なかった段階で、部分的にメルトダウンか、燃料棒の毀損が発生しているようだ。しかし現在では、ここの急所は完全に掌握されており、必死に行っている給水が、それを物語っている。給水が不可能になる事態が発生することは考えにくい。本来の冷却機能の回復が遅れても、最低消防ポンプによる給水は継続されるのであり、時間は稼げる。万一メルトダウンして、炉心が高温高圧になった場合、圧力が高まるのを回避するために、ベントという圧力抜きが行われるが、その際放射能が外気に漏れる可能性が高い。しかし、フィルターを通して行われ、広域にわたって重大な影響を与えるものではない。メルトダウンした場合でも、厚さ16センチの格納容器と防護壁を突破して核物質が爆発的に拡散をすることはないというのが専門家の一致した見方だ。62トンが溶けたスリーマイル島でも、水蒸気爆発には至らなかったのであり、よほどの操作ミスでもない限り、心配はいらないとされる。官房長官・枝野幸男が「放水で悪化を食い止めて、成果が上がり、収束へ一歩づつでも努力が続けられている」と述べているとおり、前進しているのだ。想定を越えた未曾有の天災の中で、「現場」の決死の努力が続けられているのであり、マスコミは「日本全国理科音痴」を卒業し、細事に拘泥してケチを付けてばかりいる習性を改めるべきであろう。風評による「天災」の「人災」化が危惧されるのである。
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