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2011-01-17 07:31
「与謝野人事」で政局不可避の形勢
杉浦 正章
政治評論家
与野党を問わずほうはいとして巻き起こった改造人事批判は、通常国会が「与謝野政局」となりかねない様相を帯び始めている。マスコミの世論調査も、全部が全部首相・菅直人の与謝野馨起用に「ノー」を突きつけた。論客も、信無くば立たず。菅は“最強の内閣”どころか、明らかに与謝野人事で不信感を増幅させるという誤算をおかした。与謝野は、通常国会で格好の標的となり、問責決議も可決されかねない情勢だ。これは菅自身への問責とも、連動する可能性を帯びる。世論調査も、朝日の「評価しない」50%、日経も5割に達し、菅の狙いは完全にはずれた。与野党を問わぬ与謝野批判の声はもはや感情論となっている。民主党内からは渡部恒三が「自民党政権下では一番いい思いをして、政権を失うと、飛び出して新党を結成、今度は入閣だ。卑しいし恥ずかしい」とまで言い切った。
野党も自民党の参院政審会長・山本一太が「通常国会の冒頭から問責を出したい大臣だ」と述べれば、公明党幹事長代理の高木陽介は「自民党で当選した人が、その反対側に行くのであれば、議員を辞職して入閣するのが筋」と議員辞職を要求。ただ1人ご機嫌なのは、自らへの攻撃が相対的に薄れると見た元代表・小沢一郎。1月16日のテレビ番組で、笑いを絶やさずに上機嫌で、人事について「菅さんがどういう考えで登用し、どうしようとしているのか、国民が注視している」と、まさに“お手並み拝見”と洒落込んでいる。与謝野自身は、同じ16日のNHKで「菅首相の社会保障と税制改革の気持ちが本物だと分かったので、私が持っているものを国民の将来のために役立たせたい、と入閣した」と弁明したが、これは逆だ。8月ごろから碁会と称して秘密裏に会談したのを皮切りに、公式・非公式に菅と会って、菅に取り入り、“洗脳”したのが実態だ。ついでに、自分でなければ改革は実現できない、ことを印象付けたに違いない。
巧みなるワザだが、政界と国民の信望は一挙に失った。その与謝野が何をしようとしているかだが、筆者の見るところでは、全てのカギが、自民党が昨年の臨時国会に提出し継続審議となっている財政健全化責任法案にある。政府に財政再建を義務づけ、消費税導入への道筋をつけるための法案だが、与謝野が終始かかわって作成したものだ。同法案は、超党派の国会議員による円卓会議を提唱しており、これを成立させることを条件に、与野党協議のとっかかりにしようというわけである。既に1月12日に官房長官・仙谷由人が「基本的な考え方は全く同じ。あの法案が持っている考え方は了承するにやぶさかではない」と、自民党への秋波を送っている。与謝野は、同法案の成立を自民党に約束して、交渉に引き込みたい考えに違いあるまい。NHKでも「法案には、与野党協議が書いてある」と手の内をちらりとほのめかした。
しかし、信望喪失が邪魔をして、ことはやすやすと進むはずがない。自民党は、政権攻撃の的がいささか古びた小沢に加えて、“新鮮”なる与謝野が登場したことで、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)の様相だ。特に、参院が突出しそうな気配でもある。与謝野が健全化法案で働きかけられる余地など全くない。菅は、与謝野に対野党の政治力を求めていたようだが、とてもその能力はない。ましてや、民主党内の小沢グループは、消費増税とマニュフェスト批判の“元凶”与謝野憎さで燃え上がっており、与謝野に民主党内説得を求めるのは、八百屋で鮟鱇(あんこう)をくれというようなものだ。結局、菅が6月の税制改革案決定に向けて、対野党の調整と党内調整をして、与謝野にお膳立てをする必要があるのだ。与謝野が出来ることといったら、政策面での貢献しかあるまい。それなら官僚をうまく使いこなした方がよかったことになるではないか。もっとも霞が関は、沈む泥舟に全体重を掛けて乗ろうとしている官僚は少ない。これまで通り、自分の身が危うくならない程度の仕事ぶりで、お茶を濁すだろう。面従腹背の様子見でいくものとみられる。
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