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2010-11-24 12:14
PECC東京総会に出席して
池尾 愛子
早稲田大学教授
10月21-22日に、太平洋経済協力会議(Pacific Economic Cooperation Council、PECC)の東京総会に出席する機会を得た。PECCの個別分野ごとに設けられたタスクフォースでの研究成果はPECC総会で発表されるばかりではなく、アジア太平洋経済協力会議(Asia Pacific Economic Cooperation、APEC)にも提供されている。ただ歴史的に振り返れば、1980年9月にキャンベラで開催された「環太平洋共同体セミナー」が第1回PECCと呼ばれるようになった。当時の大平正芳総理が環太平洋諸国で連帯することを提案したのに対して、フレーザー豪首相が支持を表明したのであった。それゆえPECCの歴史は、1989年に始まったAPECの歴史より長い。1980年のキャンベラ・セミナーの日本人参加者は、大来佐武郎氏(外務省)、飯田経夫氏(経済学)、佐藤誠三郎氏(政治学)で、オブザーバーに小島清氏(経済学)が含まれていた。
PECCについては『25年史』が利用可能であり、同ウェブサイト(http://www.pecc.org/)には10月の東京総会の様子がすでに掲載されている。会議の参加者は政策志向の経済学者、政府や中央銀行のエコノミスト、政策シンクタンク関係者で、国際経済機関からの出席者も見受けられた。分科会のセッションでは、PECCプロジェクトの「都市中心部における環境的持続性」、「経済展望:マクロ金融連関と金融深化」のほか、「人口統計・高齢化社会」、「気候変動」の諸問題が取り上げられた。それ以外は単一セッションで会議が進行し、関係者がこのPECCという会議の場を自由に使ってよいとされているように感じられた。最も意欲的だったのは、ソウルでのG20を11月11日と12日にひかえた韓国からの参加者たちであり、同メンバーのインドネシアからの参加者たちも積極的に交流に励んでいたのが目立ったように思われた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の原加盟国の一つであるニュージーランドの経済学者がTPPを推奨するなど、多かれ少なかれ、各国政府やPECC加盟国への政策提言を反映する内容になっていた。中国の金融・為替問題を改めて指摘したアメリカの経済学者の議論も興味深かった。中国の参加者の発表もあったが、中国の人たちの韓国観・韓国人観がいまひとつつかめなかった。
それでも、共通した経済概念や関連データを使い、ある程度の計量分析を行って、環太平洋地域の様々な経済・社会・環境問題やそれらへの政策が議論されるようになってきたことは、経済学などが思想を越える科学的な分析ツールを提供してきたことを意味して興味深い。生前の小島清氏からPECCに先立つ環太平洋貿易発展会議(PAFTAD、1968年開始)の報告書を拝見して話を聞いたことがあるが、当時から環太平洋経済に関するデータをとにかく提示するように努力されていた。経済データと分析結果を提示して政策を語ることは、現在では当たり前になっているが、データの収集と分析は時間を要する作業であり、それを基にして国際会議で問題解決に向けての政策を議論して収れんさせていくためには、忍耐と経験が必要とされる。加盟国が増えるたびに、制度の相違に直面し、寛容と忍耐が要請されてきたことであろう。
PECC東京総会には若手のエコノミストたちも各国から出席していて、こうした国際会議経験を積むことによって、近い将来に政府に助言することになる政策専門家として育っていくことが期待されていた。もちろん、ある経済政策を実際に採用するかどうかは、民主主義国家では選挙で選ばれた政治家たちが決めることである。東京総会においては、ホストの日本がTPPに参加するかどうかは、既に政治過程に入っていることが告げられた。TPPはAPEC横浜総会(11月13日と14日)でも取り上げられ、その後も議論が継続している。TPPをめぐる分析や議論は既に始まっており、忍耐強い議論が行われていくことであろう。いずれにせよ、各国の制度の相違を明らかにして、その透明性を高める方向に事態が動き、自由な経済活動の障害となっているものがあぶりだされていくことになるように見えるのである。
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