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2010-09-16 07:41
野党に抱きつかざるを得ない民主党政権の状況
杉浦 正章
政治評論家
9月16日で民主党政権発足1年になるが、この間日本の政治はどう変わったか。代表選挙での小沢敗退は、フランス革命での革命直後の過激派一掃を想起させる。現実遊離のマニフェスト至上主義派が敗北したといえる。首相・菅直人の現実路線が定着する流れとなった。内政は経済政策という名の社会政策が進み、外交は対米関係の悪化を招いた。露呈した「政治とカネ」への認識の甘さは、国民の間にクリーン民主への幻滅感を生じさせ、今後ボディーブローとなって作用するだろう。総じて言えば、政権の経験がない政党が国政を担当すると、これだけ世の中を引っ張り回すものかというのが、1年経過の感想だ。弁舌に惑わされて選んだ首相・鳩山由紀夫がとんでもない“欠格者”であり、発言の大半が為政者としての能力欠如を露呈させるものであった。幹事長・小沢一郎の党の私物化ともいえる独断的党運営は、全体主義のにおいすら感じさせるものであった。
国民に幻影をばらまいたマニフェストも肝心の財源に問題があることがようやく政権に分かってきた。小沢が代表選に敗れた原因の一つには、余りにもでたらめな財源論があったことは確かだ。子ども手当、高校無償化、農家の個別所得補償など、目玉政策の実施は、経済政策というより社会政策であり、社会党や労働組合などを政権基盤に持つ社会主義政権の側面を露呈させた。外交問題では、稚拙というか、無知というか、鳩山の不必要に提起した普天間移転問題が対米関係を悪化させて、いまだに解決のめどが立たない状況だ。米国務長官・クリントンが9月8日、「米国は韓国、日本、オーストラリアといった緊密な同盟国との結束を再確認した」と述べ、これまで定型的に使ってきた「日本、韓国、オーストラリア」という順番を変更した。アジア同盟国格付けで、日本を韓国より下に置いたことになる。あきらかに民主党政権に対する米国のいら立ちのメッセージであろう。ミスプリントではない。確信犯のようだ。それにしても国務省の外交官は嫌らしい嫁いびりのようなことをやる。
こうした内政・外交にわたるマニフェスト至上主義路線は、財務相を経験した菅が首相になって転換の兆しがでた。マニフェスト修正方針を打ち出し、参院選では消費税導入を明言した。これに反発した小沢が、フランス革命の過激派のような最後の抵抗をして、敗北したのが、代表選挙だ。フランス革命なら断頭台の露と消えるところだ。そして参院選がもたらした衆参ねじれ現象は、この菅の現実路線の推進を一層不可欠なものとした。自民党新幹事長の石原伸晃は、消費増税を容認する姿勢を強調したうえで、「菅首相が、漫然と構えている余裕はないとの認識をもつなら、抱きつかれてもいい」と述べたが、菅は抱きつかざるを得ない状況に置かれているのだ。菅は最近よく1998年の「金融国会」で、時の首相・小渕恵三 に「金融再生法案の野党案を丸のみさせた」例を挙げている。これは抱きついてでも予算や重要法案を通す姿勢の裏返しだ。臨時国会では景気対策のための補正予算が最大の課題になるが、筆者が以前から提案しているように、自民党と事前調整をして、自民党案を丸のみするほどの抱きつき路線が一策だ。その成否が通常国会の本予算審議にもおよび、場合によっては大連立へと発展するかも知れない。
代表選挙では、衆参民主党議員の半数近くの200人が小沢支持に回ったが、これほど度し難い政治家の行動も珍しい。「政治とカネ」の本家であった自民党でも考えられない倫理観の欠如だ。80%の国民が反対する政治家を支持するという民意無視の展開は、確実に誰が誰に投票したかが判明する事とも相まって、次の総選挙で手痛いしっぺ返しを受けるだろう。いずれにしても政権担当1年は幻滅連続の過程であり、菅の現実路線がどこまで民主党を盛り返せるかにかかっている。現在の内閣と民主党支持率の上昇は、代表選で国民の目が引きつけられた「期待値」「ご祝儀相場」であり、虚構の色彩が濃厚だ。菅が結果を出せるかどうかに、すべてがかかっている。
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