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2009-11-04 09:40
鳩山首相の「友愛」と欧州で使われる「連帯」の理念
西川 恵
ジャーナリスト
鳩山由紀夫首相が語る「友愛」の理念は、もう一つイメージを喚起しない。公職追放中の祖父の一郎氏が、欧州統合の提唱者クーデンホーフ・カレルギー伯が著作の中で触れた「Fraternity」に感激して訳し、政治理念としたのが由来というが、戦後間もない当時と、グローバル化した今の時代状況の落差が「友愛」という言葉をどこか古臭いものとしている。
では「友愛」は中身のない空疎な言葉遊びかというと、これまで打ち出された諸政策から判断するにそうではないようだ。私は欧州でよく使われる「連帯」と気脈を通じる理念であり、首相もそういう意味で使っているのではないかと思っている。「連帯」は同じ共同体に生きる者同士、困っている時は助け合い、協力し合おうとの考えが基礎にあり、欧州では単なる理念でなく、具体的な政策として広がっている。
例えば北欧諸国やフランスが雇用創出のために導入したワークシェアリング。働く者が、職のない者に自分の労働時間を分け与えるとの考えから、「社会的連帯」「国民的連帯」と言われた。また航空券に課税して、その財源をアフリカなどの貧困に使おうとフランスが提唱した「国際連帯税」は各国に広がっている。現在、「国際連帯税」として通貨取引きにも課税し、温暖化対策などの財源にする構想も出ている。欧州で「連帯」が人の口に上りだしたのは1980年代からである。社会主義国では初めて1980年にポーランドで自主管理労組「連帯(ソリダルノスチ)」が結成され、以来、さまざまな場面で使われるようになった。貧しい人への給食活動では、富める者の貧者への施しではないという意味を込め、「連帯」が語られた。東西欧州、体制が異なっても、市民同士が反核平和で手をつなごうという意味でも「連帯」が叫ばれた。
そして冷戦終結後の1990年代から、「連帯」理念の徹底を図る方向で欧州社会にバネが働いている。市場主義、競争重視、小さな政府、というポスト冷戦の米英主導の政治経済思想潮流に対し、欧州大陸の伝統的な社会福祉政策を、「連帯」という今日的な脈絡の中で再編成しなおそうという狙いがあった。鳩山首相の「友愛」は、日本版「連帯」である。同首相の対米姿勢や社会政策などには、ドイツ社民党に通じるものを感じる。中道左派や社民主義路線に通じる諸政策を包括する理念として、「友愛」が語られているように思う。
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