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2009-09-02 07:42
外務官僚は信念と気骨が問われる
杉浦 正章
政治評論家
民主党圧勝で「脱官僚支配」の宣伝文句が霞が関を徘徊(はいかい)している。官僚支配のキャッチフレーズとは一体何なのかわけが分からないまま、霞が関に動揺が広がっている。新政権になびき始めた官庁も出て来ているが、日本の政治を信念を持って動かしてきた官僚も多いはずである。とりわけ外交・安保問題では、民主党の言うままになれば明らかに日米安保体制の基軸が崩れかねない危険性を内包している。北朝鮮という危険きわまりない存在により、安保体制の絆はむしろ強化されなければならない時である。とりわけ外務官僚は外交の継続性の意味からも、国益を毀損するような首相・鳩山由紀夫の方針が出されれば、毅然として職を賭してでも信念を貫く気骨が必要である。
案の定米国から強い“牽制球”が届き始めた。民主党の普天間基地合意見直しに関して、国務省のケリー報道官は「米政府は普天間飛行場の移設計画や(在沖縄米海兵隊の)グアム移転計画について、日本政府と再交渉するつもりはない」と明言したのである。真っ向からの反対であり、民主党の対応によっては「日米普天間摩擦」へと発展することは必死だ。もともとオバマ政権への影響力の強い元国防次官補・ジョセフ・ナイが昨年民主党幹部との会談で、日米地位協定や普天間飛行場の移転見直しに動いたら「反米と受け止める」と警告を発しており、給油活動中止などがマニフェストに明記されてもやはり「反米とみなす」との懸念を伝えている。その線上で外交担当者の公式発言となって現れたことになる。またニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど影響力の強い新聞論調も、鳩山政権の対米外交に懸念を表明している。とりわけワシントン・ポスト紙は「日本が米国との決別を模索するのはあまりに危険だ」と指摘している。外務事務次官・藪中三十二は31日の記者会見で、核密約は存在しないという従来の見解を反転させ、「新しい政権になったときに指示を仰ぎながら必要な対応を取る」と新政権への対応を明らかにした。核密約に関しては日米両国の政府関係者からその存在が明示されており、調査自体は問題ない。しかし民主党の左派やとりわけ連立を組もうとしている社民党が「非核3原則の法制化」を唱え、これに鳩山が検討を約している問題を見逃してはならない。調査の次には核の存在を明示しない米国の「国是」に真っ向から立ち向かう「3原則法制化」が待ち構えているのだ。
加えて自衛隊のインド洋での給油問題での鳩山の主張は、外務省が確信を持って遂行してきた外交路線と真っ向から対立する。ワシントン・ポスト紙がいみじくも「経験が乏しい政治家」と指摘するように、鳩山は外交・安保への理解が乏しい。外交・安保の公約なしに総選挙を勝ち抜いた欺瞞(ぎまん)のツケが早くも露出してきているということになる。問題は、外務省当局がここで民主党の政策に迎合するかどうかである。国民は公約がないまま米紙の指摘するように日米関係の「決別を模索」されてはたまらない。外務官僚は“保身”に走るべきではない。いまこそ日米安保体制の重要性を首相に対して真剣に説得し、受け入れられないなら辞表を提出すべきである。
外務省に限らない。国交省は民主党のマニフェストに迎合して八ッ場ダムの入札を延期した。これも読売新聞が2日付の社説で主張しているように、水の供給と治水の恩恵を受ける流域1都5県が推進の立場であり、「選挙で公約したからといって、民主党が中止を無理強いできるような状況とはいえない」問題だ。既に約3200億円が投入された工事を、人気取り政策に迎合して中止すればそれこそ税金の無駄遣いだ。とりわけ注意が必要なのは検察庁だ。小沢一郎の秘書逮捕を検察の陰謀扱いしてきた民主党政権である。検察自体は元首相を逮捕するくらいの正義のとりでだから問題はないだろうが、民主党は法相人事を重視しており、何らかの影響力を行使しないとはいえない。もし指揮権発動のようなことが起きれば検事総長は直ちに辞任で対応すべきであることは言うまでもない。「官僚はすべて悪である」を前提に構築された民主党マニフェストに霞が関は、堂々と矜持を持って是々非々の対応すべきだ。いまほど官僚の気骨が国家レベルで問われているときはない。
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