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2009-08-05 12:07
改正臓器移植法の成立について思う
西川 恵
ジャーナリスト
改正臓器移植法が先月国会で成立した。小児の脳死判定の難しさなど宿題はあるが、個人的にはこの法律は必要なものだと思っている。
世界保健機関(WHO)は来年5月の総会で、臓器移植に関する指針を改訂し、外国に渡航して移植を受けるのを自粛するよう求める予定だ。日本の法律は15歳未満の臓器提供を認めておらず、外国渡航にしか活路を見い出せなかった子どもたちは、事実上、移植の道を閉ざされる。現に苦しむ人がいて、救われるすべがないなら、救われるように法律を作るのが政治である。加えて日本では15歳以上の臓器提供者が極めて少ないのが現実だ。外国人の臓器提供に甘え、自分たちですべき難しい政策選択をずっと回避してきたことは知られなければならないし、日本で移植医療を定着させていくためには今回の法改正は不可欠だった。「脳死は日本人の死生観と相容れない」「議論は尽されてない」という反対論があるが、私が指摘したいのは「法律が人間の意識を変える」という側面である。
最近、駐日スウェーデン、オランダ両大使館の共催で、同性同士の結婚に関するシンポジウムが開かれた。同性婚を世界で初めて認めたのは2001年のオランダで、現在7カ国が認めている。法律成立に中心的役割を果たし、シンポに参加したオランダの弁護士ボーリス・ディートリッヒ氏は「かつて大半を占めた反対は、いまは20%前後です。“同性婚はわれわれの文化にはない”“同性婚を認めると、オランダは世界の笑いものになる”と反対していた人たちが、同性同士のカップルが日常風景となるに伴い、受け入れていきました」と語った。新しい風景を前にして「考えてたほどの懸念はなかった」と固定観念、認識が変わっていったのだが、こうしたことは結構あることだ。
私が取材でかかわったフランスの死刑廃止もそうだった。1981年に社会党のミッテラン氏が大統領に当選した時、死刑廃止反対は80%を占めた。しかし同大統領は「社会主義者として私の信念」と、喧々諤々の論争の中、死刑廃止を決めた。この後、反対論は急速に衰えていき、現在、死刑復活を望む世論は10%前後だ。改正臓器移植法が機能すれば、日本人同士で支え合う新しい移植医療の仕組みが生み出されるのではないか。「踏み出してよかった」という世論が多数となることを期待したい。もちろん慎重な脳死判定、医療機関と家族の信頼関係が必要なことは言うまでもない。
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