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2009-07-01 07:48
村田“核密約”証言の深謀遠慮
杉浦正章
政治評論家
元外務次官・村田良平が「米軍の核持ち込み容認の日米密約はない」とする政府見解を真っ向から否定して、密約の存在を明らかにした。元公務員としての守秘義務をあえて破って、この時点で証言したことは、日本の安全保障問題とりわけ非核三原則と絡んで、重要な問題を投げかけている。村田証言は、同三原則のうち「持ち込ませず」が破たんしていることを意味している。北朝鮮の核とミサイルの脅威が現実のものとなり、米国の「核の傘」による抑止力に依存せざるをえない状況下で、寄港も領海通過も認めずに、安全を確保できるだろうか。 村田は、衝撃の証言をこの段階でした理由について、「冷戦も終わって、核の持つ意味も変化した。北朝鮮も核を持っているのだから」と説明している。「外務省を辞めてもう十数年たち、冷戦も終わって、時代が全く違う。だから、もういいだろうと判断した」とも語った。
村田の証言は明らかに国家公務員法違反となる。第百条第一項には、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」とある。退職後も法的には責任を問われるのであり、非常に勇気のいる証言だ。守秘義務を次官経験者が知らないわけがない。あえて証言したのは何故か。それもこの時点での証言はなぜか。筆者は、民主党政権になった場合の事態を“憂慮”した深謀遠慮があると見た。村田は大局観のある外交官の一人である。村田によれば、同密約は一枚の紙として事務次官が受け継ぎ、次官から外相に説明してきた最重要事項の一つである。民主党政権になった場合も事務次官は同様の説明を外相に対して行うであろう。
その場合、ほぼ確定的に民主党政権は、歴代自民党政権の犯してきた過ちの筆頭として、核密約を公表するに違いない。密約追及の先頭に立った社会党左派の残滓を背負う民主党政権である。それよりも事前に公表したほうが、国家のためになると判断したのに違いない。また外交官の誰かがものを言わなければ、後輩に迷惑がかかるという判断もあったに違いない。惜しむらくは、現政権のレベルを知らなかった。政権にとっては、村田証言に応じて、密約の存在を認め、非核三原則を見直す絶好のチャンスでもあるのに、それをしないのだ。官房長官・河村建夫も「核持ち込みの事前協議がない以上、核持ち込みはない」と古色蒼然たる政府見解を持ち出して、否定した。政権の判断力欠如である。
政府高官は、「政府見解だからしょうがない。文書そのものがないことになっている。ないものは出せない」とあくまで建前論にこだわる姿勢を示している。韓国大統領・李明博は、賢明にも米大統領・オバマとの間で北の核脅威に対して米国が核の傘を行使する旨の約束を文書で交わしている。麻生は、ほとんど報道されていないが、電話会談で核の傘の合意に少し触れただけである。おりから麻生は民主党の最大の欠陥である安保・防衛問題を総選挙のテーマにしようとしているが、逆に核密約で切り返されたらぐうの音も出なくなるだろう。読売新聞が社説で「米国の“核の傘”による抑止力を高めるには、有事の部隊運用の柔軟性が重要だ。タブーにとらわれない核論議が求められる」と非核3原則の見直しを提案しているのは同感である。厳しさを増す極東情勢に対処するためにも、政府は密約を認め、非核3原則を修正すべきだ。
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