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2009-04-03 00:00
(連載)国旗と国歌について考える(3)
水野 勝康
特定社会保険労務士
結局、ハイドンの作曲した国歌を採用した国は、神聖ローマ帝国、オーストリア帝国、オーストリア・ハンガリー二重帝国、オーストリア共和国、ポーランド共和国、ワイマール共和国、ドイツ第三帝国と、150年ほどの間に次々と消滅してしまった。列挙するのも大変だが、さすがにこの国歌は縁起が悪いと考えたのか、現在のオーストリアはモーツァルト作曲のものを国歌として使っている。ポーランド国歌も歌詞は第二次大戦前のものを使っているが、メロディーは別のものを採用した。
ドイツ連邦共和国国歌のケースは一例であるが、大抵国歌や国旗にはそれぞれ物語があり、それが制定された当時の国際政治を無視しては語れない。中華人民共和国国歌の「義勇軍進行曲」は反日映画の主題歌であったし、大韓民国国歌の「愛国歌」の作曲者安益泰は満州国建国10周年の祝賀曲を作曲していたため、後に「親日派」のレッテルを貼られる羽目になった。また、これは豆知識になるかもしれないが、韓国国歌は「蛍の光」のメロディーで歌うことができる。
なお、現在でも、イギリス国歌とリヒテンシュタイン国歌、フィンランド国歌とエストニア国歌のように、同一のメロディーに別の歌詞が付けられている国歌が存在している。また、ギリシア共和国とキプロス共和国の国歌「自由への賛歌」や、トルコ共和国と北キプロス・トルコ共和国の国歌「独立行進曲」のように、複数の国が同一の歌詞とメロディーの曲を国歌とする例もある。もともと、キプロスはギリシア系住民とトルコ系住民が混在しており、イギリスの直轄植民地を経て独立した後も、ギリシア系住民はギリシアへの併合を求め、トルコ系住民はトルコへの併合を求めていた。1964年には遂に紛争になり、キプロス島の北側が現在の北キプロス・トルコ共和国として独立したが、現在も国家として承認しているのはトルコだけである。ギリシアとトルコは同じNATOに属しながら仲が悪く、半世紀近く首脳会談すら途絶えたままであった。ギリシアとトルコの紛争は、遡れば神話の時代のトロイ戦争まで行き着く。南キプロスはギリシアの、北キプロスはトルコの国歌をそれぞれ自国の国歌として使っているということは、それぞれ将来の併合を求めてか、少なくとも民族的な母国とのつながりを残したいという意思の現われであろう。
台湾(中華民国)の国歌「三民主義」は、国際関係上の微妙な問題もあり、自国以外の公の場ではほとんど歌われない。もともと黄浦軍官学校(中国国民党の陸軍士官学校)の校歌として孫文が作詞したものだが、中国に対する遠慮から、オリンピック等では国旗歌が用いられている。この国旗歌は台湾では朝夕の国旗掲揚・降下の際に使われているので、台湾の国民にとっては身近な歌ではあるようだ。台湾の国旗は青天白日満地紅旗だが、これも中国との関係から、オリンピック等では別のデザインの旗が使われている。一方、台湾独立派は、中国と台湾は別の国であり、「三民主義」と「青天白日満地紅旗」は中国統治の残滓であるので、独立にあたっては別の国旗・国歌を改めて制定すべきだ、と主張している。今も微妙な問題が続いているのである。(つづく)
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