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2009-03-23 00:00
(連載)有毒資産の価格付けについて(2)
池尾 愛子
早稲田大学教授・デューク大学シニア・フェロー
つまり、高級住宅価格の持続的上昇を予想に組み込んで、価格が十分上昇したあたりで転売して、自己の所得・信用力水準にふさわしい住宅を購入するという投機を実施することが、ローン返済の必要条件として組み込まれていた。そのため、返済能力について、所得や保有資産の状況についての審査が行われなかったケースが多い。住宅価格が永久に上昇し続けるとは誰も予想していなかったけれど、サブプライム・ローンの振興により価格上昇が始まった初期に住宅を購入した人々は、確実にこうした機会を活かして幸福を手に入れられると期待されていた。
しかし、いつどのようにして住宅価格の上昇が終わるかまでは、あまり考えられていなかったようである。多少のローン破綻が発生するだけで本当に事態は収拾しうるのか、という点で経済学者たちの予想はほぼニ分されていた。話を戻そう。こうした未知のリスク(望ましくないことが起こる確率)を一見処理したのが、デリバティブ技術を駆使した金融派生商品の生成であった。住宅ローン証券化商品の束を貸倒れリスクにより4層ほどに分けて販売しようとしたところ、貸倒れリスクの低い上位層は当然売れ、同リスクの高い下位層も売れ、中位層が残った。その売れ残った中位層を束ねて4層ほどにして販売しようとしたところ、また中位層が残った。という操作を何回か行って、売れ残った部分がとくに有毒資産と呼ばれている。
要するに、貸倒れリスク0.5に近いところが残っているといえそうである。確かに0.5は0と1の中間であるが、上の論理確率を参照すれば「理由不十分」と同等で、最も不確実性が高くなった部分が残ったのではないか。買い手がつかなければ、価格はゼロである。訳のわからないものは、素人には買えないので、幾らかでも生成過程を知っている専門家が買いたくなる価格をつけるしかない。特殊な損害保険の引受け、再保険の世界とよく似た形でしか対処できないといえそうである。
解毒剤の生成は、有毒資産を大量に保有する金融機関で活躍する有能なトレーダーたちの手腕にかかっていると期待されている。米国憲法によって保障された神聖なる契約を破ることには、法手続き上の問題が意識されている。その一方で、問題を発生させたトレーダーたちへの大型賞与に対する「社会」の道徳的圧力には物凄いものがある。それでも週明けには、米財務長官によって有毒資産対策が発表される予定になっている。それはさておき、プロバビリティについてのこうした社会科学的考察・議論は現在でも続いていて、私もヨーロッパの研究者たちが組織する研究プロジェクトに参加することになっている。研究者の間でも未だに議論の多いテーマなのである。(おわり)
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