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2009-03-21 00:00
(連載)ソマリア沖への自衛隊派遣について思う(2)
水野 勝康
特定社会保険労務士
最近、塩野七生の手により『ローマ亡き後の地中海世界』という本が発刊された。 この作品は、ローマ帝国が東西に分裂し、西ローマ帝国が滅亡した後を「ローマ亡き後」として、ローマの覇権が及ばなくなった後の地中海世界を描いている。実際には西ローマ帝国が滅亡した後も、ビザンチン帝国とも東ローマ帝国とも呼ばれた国家は「ローマ帝国」を国号として、なお千年生き延びている。しかし、東ローマ帝国は最盛期を除くと、もはや地中海の支配者ではなかった。著者が、東ローマ帝国という「ローマ帝国」が残っているにもかかわらず、書名を『ローマ亡き後』としたのは、覇権国家でなくなった後のローマ帝国はもはや過去のものである、と考えたからではないかと思われる。
教科書では「中世の暗黒時代」として教えられる時代、地中海を支配したのはイスラムの海賊であった。『ローマ亡き後の地中海世界』では、この海賊とヨーロッパ世界の戦い、或いは海賊を自国海軍として取り込んだオスマン帝国の歴史などを取り混ぜて、中世の複雑な地中海世界が描かれている。 私はこの本を読んで、「ローマ亡き後の地中海世界を描いているが、決して現代と隔絶した話がされているのではない」と感じた。ローマ亡き後の地中海を支配したのは海賊だったが、何故海賊が地中海世界の覇者となり得たのかを通して、ある意味では現代の海賊対策にも通じる話がされている。実際、著者はローマ帝国、ベネチア共和国、スペイン王国各々の海賊対策の比較を試みており、この本が単なる歴史の読み物としてだけでなく、現在そして将来の人々に役立てられることを望んでいるように感じられた。
著者は、海賊は単に略奪行為をする存在ではなく、その背後に海賊をビジネスとして支える社会システムがあってこそ海賊は成り立つ、と述べている。実際、ソマリア沖の海賊は身代金ビジネスをしているし、マラッカ海峡の海賊は略奪した船や物を中国などに売るルートを持っている。海賊がビジネスとして成り立つ背後関係を考えると、ローマ亡き後に地中海世界を支配したイスラムの海賊、サラセン人の海賊と、現代の海賊には類似性が認められるのである。そして、海賊対策も国家によって異なる。ローマ帝国は大軍を投じて大規模な海賊退治を行い、海賊を物理的に殲滅するとともに、海賊の本拠地を占拠し、海賊稼業に従事していた人々を内陸部に移住させ、農耕民として生きていけるような政策を取っている。海賊稼業に従事しなくても生きていけるシステムを作ったわけである。
ベネチア共和国は、ローマ帝国と同様に海賊を軍事力で撃滅しているが、その後海賊の根拠地から自国艦船であるガレー船の乗組員として若者を雇用し、根拠地を造船所や生鮮食料品などの補給基地にして、自国海軍・商船の安全運行に資するようにしている。ローマ帝国もベネチア共和国も、ともに海賊対策は確かに当初は大々的な武力行使を行っているが、同時に海賊が海賊稼業に従事していかなくてもよくなるような社会システムの整備を行っている。これに対して、スペイン王国は、海賊の本拠地の近くに砦を建設し、そこに守備隊を置き、監視させるという方法を取った。スペイン王国が大航海時代になるまでまともな海上戦力を保有していなかったと言うことも、この背後にはあるようである。ローマ帝国とベネチア共和国が、その国力が充実しているうちは海賊問題を解決できたのに対して、スペイン王国の対策はほとんど自己満足と言えるもので、海賊対策には大して役に立たなかった。この歴史の教訓から、ソマリア沖やマラッカ海峡の海賊対策が急務である現代日本の我々は、何を学ぶべきか。(つづく)
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