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2009-03-06 00:00
薮中外務次官論文「日本外交のかたち」を読んで
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
月刊『外交フォーラム』といえば、表面にこそ出ていないものの、日本外務省の広報誌。だから(といっては失礼に当たるが)余り面白い記事は稀だ。しかし、3月号巻頭の薮中三十二外務事務次官の「日本外交のかたち」の前半部分は、さすがという見識が披露されていて面白く読んだ。「内需喚起の世界的意義」を次官がこれほど認識して、かつパブリックなかたちでコメントされているのは、わが意を得たりの感がある。
冒頭に「アフガニスタンの問題ひとつとってみても、日本にはあまり期待できないのでは」というアメリカ有識者の問いかけに、「さすがに黙って聞いているわけにはいかず、アフガニスタンで日本が作った学校は500、養成した先生の数は1万人、識字教育を行った生徒の数は30万人、作ったクリニックの数は50、ワクチンを提供した数は4000万人、カンダハール~ヘラート間のリングロードは(中略)日本企業の献身的努力でようやく完成しつつある、と答えた」というあたりは、余りこういうまとまった形で耳にすることが少なかった情報だけに、なかなか読ませた。
後半の東アジア情勢、イラン、ミャンマーのあたりは通り一遍のお話だったが、限られた紙数で何もかにもというわけにもゆくまい。ただ、これほどの見識をお持ちの次官が、なりふりかまわぬ中国外交のあり方について、「さらなる努力を期待したい」とか、「早期の解決を期待している」、さらには「舵取りが注目される」といったNHK風のコメントをするだけなのは、いかがなものか。外交官として限度はあるにもせよ、多少のホンネをうかがわせるご意見を是非聞かせてほしかったものである。また、日本の外交力として「環境に優しい国・日本、平和構築・軍縮の日本、途上国の国づくりを助ける日本」で、「ハイテクとモノ作りの国・日本、文化の国・日本」を強調し、「中規模高品質国家」を目指し、ODAにおいては人的貢献を特色として一層の増額が望ましい、と締めくくるのでは、折角の「内需喚起の国際的意義」という強烈なステートメントが希薄化してしまう。
お立場上、これまでのODAの中味を見れば、総額が4割くらい減っても、「中味の充実」(これは藪中氏の用語)で十分おつりが来る、とはおっしゃれないだろうし、アフリカの高学歴の失業中のインテリが「何であんな仕事をわざわざ日本から連れてきた人間にやらせるんだ」みたいな意見を持っているのに、真正面から反応はおできにならないだろう。しかし、そんな内容をほのめかす発言というのは、外交官でいらっしゃる氏には得意中の得意のはずではないのだろうか。また、国の経済力が中規模になったからといって「中規模国家」を自称することもあるまい。ODA先進国と評判の高い北欧諸国が「小国外交としての援助」を謳うのも、余り聞かない話だ。
折角の好論文の揚げ足取りに読まれたとすれば不本意だが、「内政と外交はニつのものではない」というお立場の外交リーダーを得たのは誠に心強い。「麻生総理の指示があって」こんなこともできるようになった、と満足されるのではなく、ぜひ心もとない麻生外交のご指南番をもって任じて頂きたいものだ。
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