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2009-02-02 00:00
国際経済機関とその本部所在国政府との関係
池尾 愛子
早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
アメリカでは、1月17-18日の週末、新大統領の就任式が近づき、シカゴ、フィラデルフィア、ワシントンを中心に、パーティー気分が盛り上がっていた。セキュリティが強化され、ピンと張りつめた空気も伝わってきた。19日は、志半ばで凶弾に倒れたマーティン・ルーサー・キング牧師の記念日(国民の祝日)で、人種を越えた社会の実現をめざす希望を引き継ぎ、コミュニティ・サービスを励行することになっている。翌20日は、それぞれの仕事に励むはずであった。しかし、私のいるノースカロライナ州平野部では、深夜から昼過ぎまで雪が降り、数年ぶりに20-30cmの積雪となり、大学の授業やセミナーがほとんど中止になった。そのため、アパートで1日中テレビをつけっぱなしにして、就任式、昼食会、パレード、舞踏会の様子を、論文集の仕上げや簡単な雪かきの作業をする傍らで、眺めることになった。一通り見ると、世界最強の軍隊の最高指揮官が新しく誕生したことが伝わってきた。
その後、テレビカメラの前での宣誓式のやり直しはあった。しかし、金融・経済危機という現実は容赦なく立ちはだかった。人員削減、失業手当申請者数の増加という陰鬱な数字が、一連の就任セレモニーの終了を待っていたかのように、次々と発表された。オバマ氏と彼の経済チームはその週末から、経済対策の提案に乗り出し、大きな景気刺激策が2月2日にも議会での承認を受ける見通しになっている。こちらには即効性が期待されている。
他方で、金融アーキテクチャの再構築には中長期的な展望のもとでの思考が必要である。その要にもなると期待されるのが新財務長官のティム・ガイトナー氏である。1月26日にずれ込んだ就任式では、子供時代にアジアの幾つかの国で暮らした経験にふれ、「アメリカを外から見るという体験を積むことができた」と語ったことが印象に残った。彼の議会承認が遅れた理由は、ワシントンに本部がある国際通貨基金(IMF)に勤務していた間の納税が不十分だったことにある。アメリカの被用者の所得税等は雇用者と被用者が折半して納税する形をとる。が、国際機関は「雇用者負担分」を納めないので、被用者(職員)個人が全額を納めなければならないのに、彼が指定期日までに納めたのは被用者負担分のみであった、という理解である。詳細は省くが、アメリカにある国際機関勤務経験者がアメリカ政府の要職に就きにくい背景が、このあたりにあると指摘されていた。そうした困難を打ち破って、国際性をアピールできる人が財務長官に就いたのである。アメリカの大きな変化である。
ただ、IMFや世界銀行(国際復興開発銀行)というブレトン・ウッズ機関の本部がアメリカの首都におかれたのは、1944年頃アメリカが極めて突出した経済大国であり、国際経済機関は大国政府と交渉しなければならないことがあると予想されたからであった。今また新しい国際金融インフラの構築を目指すにあたっては、国際経済機関と本部のおかれた国の政府との関係も問われなくてはならないように思われる。以前に増して、その国の中での人的つながり、交流は深まっている。ちなみに、ヨーロッパでは国際機関は国際機関として認知されており、職員の納税は複雑ではあるが特定のルールに従って処理されていると聞いたと記憶する。
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