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2009-01-16 00:00
イスラエル軍のガザ侵攻を止められない悲劇
石川 純一
フリージャーナリスト
2009年はイスラエル軍のハマス攻撃で幕を開けた。イスラエル軍は、イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区のガザ地区を、ハマス側からロケット弾攻撃を受けたという理由で昨年末12月27日に大規模空爆し、1月3日夜(日本時間4日未明)には地上部隊を投入して、全面的な侵攻に踏み切った。国連安保理は8日夜、公式協議を開き、ガザ地区での「即時かつ恒久的な停戦」を求める決議案を賛成14、棄権1で採択した。決議は全会一致での採択が見込まれたが、米国が棄権した。メディアには、連日生々しい侵攻の画像や、逃げ惑うパレスチナ住民の痛々しい姿が映し出されるが、戦闘がやむ気配はない。なぜなら、イスラエルはもちろんのこと、ハマスにとっても、周辺のアラブ諸国にとっても、この戦闘がその利益になっているからである。
パレスチナ解放機構(PLO)をベイルートから追い出した1982年のレバノン戦争、その後のレバノン南部を舞台としたイスラエル軍とシーア派の大規模軍事衝突もそうだった。今回のイスラエル軍のガザ侵攻は、かつて首相としてパレスチナとの和平にのめり込み、政権を棒に振ったバラク国防相が総指揮を執っている。総選挙をこの2月10日に控えたイスラエルでは、「譲歩」はクネセト(国会)における議席喪失を意味する。同じバラクでも「進歩・革新」の象徴であるバラク次期米大統領と違って、バラク国防相には、強硬手段の継続しか生き残る道はない。そして軍が強硬であれば強硬であるほど、国民が拍手喝采しているのが、イスラエルの実情だ。「作戦の目的は停戦そのものではない。ハマスのテロの根絶だという観点を、忘れてはならない」という英字紙『エルサレム・ポスト』の7日付社説が、この間のイスラエル国民の気持ちを代弁している。
ハマスはどうか。徹底抗戦すればするほど、逃げ惑うパレスチナ住民の姿が国際社会に焼き付き、国際世論の同情がハマス側に傾いていく。勝つ必要はない。負けなければいいだけである。かつて故アラファトPLO議長が得意とした常套手段である。さらに、ヨルダン川西岸を支配するアッバス議長率いるパレスチナ自治政府の幹部たちを、追い詰めるという副産物もある。事実、攻撃にさらされるパレスチナ住民を前に、何ら有効な手段を取れないのが、アッバス議長らだ。周辺アラブ諸国はどうか。ハマス側は、国際テロ組織アルカイダとのつながりは全くなく、軍事作戦はイスラエルに対してのみであると主張してきたが、自国内の過激派に手を焼くエジプト、サウジ、ヨルダンなどの周辺アラブ諸国にとっては、アッバス議長のパレスチナ自治政府との「和解」をのらりくらりと引き延ばしているハマスは、アルカイダと「同じ穴のむじな」だ。表面上は、人道主義を掲げてイスラエル側を非難しているが、心の底ではハマスなど消えてなくなればいい、という気持ちがみえみえだ。
安保理の停戦決議に棄権した米国は、いまだブッシュ大統領の共和党政権だ。バラク次期大統領就任までには、なお日にちがある。それぞれの思惑で戦闘は現時点ではやまない。バラク大統領が正式就任して以降、ハマス、イスラエルとも米国に「恩義」を売るという形で、停戦に応じて行くだろう。そして、再び実利を得ることが可能と感じた段階で、戦闘は再発していくのである。人道主義、人権、同情心でパレスチナの闘いを食い止めることはできない。どちらかがどちらかを叩きつぶすまで続く。
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