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2009-01-10 00:00
アメリカ版ねずみ講を見破れなかったSEC
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
バーナード・L・マドフといえば、ビーチボーイ(海水浴場の便利屋さん)から身を起こし、40年以上もウォール・ストリートに君臨したいわば大物中の大物。その彼がこともあろうにネズミ講(英語ではPonzi scheme というらしい。Ponzi は20世紀初頭にこの仕掛けを開発したイタリア系移民の個人名)で4兆5千億円を集めたとしてFBIに逮捕された。1971年に日本でこれまで最大のネズミ講として逮捕された「天下一家の会」主宰者の脱税額が77億円だったのに比べても、そのスケールの違いに驚かされる。
ひっかかった被害者は正に死屍累々で、日本では野村HDの275億円が筆頭。三菱UFJも名前を連ねている。世界中の名のある銀行、投資家、大学基金、財団などなどが枕を並べた。HSBCが900億円とか、ユダヤ人のノーベル賞受賞者エリー・ウィーゼル財団、さらには基金が吹っ飛んで活動停止に追い込まれた財団など、それこそ枚挙に暇がない。
集金はさまざまな窓口で行われていたようだが、その一つフェアフィールド・セキュリティ・ファンドは700億円を集めて、年11%の配当をうたっていたという。いくら何でも、という気がしないではないが、おれおれ詐欺に未だに引っかかる人がいるのだから、そんなものといえば、そんなものかもしれない。一方、マドフを逮捕したのが、泣く子も黙る証券取引委員会(SEC)ではなくて、FBIだったことについても、米国では議論になっているようだ。なぜこんなあからさまな詐偽を見抜けなかったのか、という訳だ。
これまでコンプライアンス(法令遵守)だ、ガバナンス(会社統治)だというと、お手本のように思われていた米国モデルも、エンロン事件以来いささか陰っていたのが、先のサブプライムで格付け機関のいい加減さが露呈され、ここへ来てSECよお前もか、という事態に立ち至っている。会社法を始めとして、ビジネス法制の世界では、短兵急に米国型に追随を急いできた日本のあり方も、少しは見直す機会かもしれない。
何も今日昨日の話ではなく、悪いやつというのは、それこそ「浜の真砂」であって、それを法規制によって予防しようというのは、もちろん正当なやり方ではあるのだが、万能という訳にはゆかない。こういうときに限って、規制の網の目をもっと密にしなくてはならない、みたいな議論がお役所(とそれに寄生する御用学者)あたりからは出てきそうだ。一人の不心得者を出さないために、残りの九十九人が迷惑するのには構っていられない、という論理だ。桑原、桑原。
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