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2008-12-08 00:00
遅きに失した自民の「民放番組欠席」圧力
杉浦 正章
政治評論家
ついに自民党が民放テレビの報道番組への国会議員の出席に“圧力”をかけ始めたようである。サンデープロジェクトのキャスター田原総一朗自身が番組で明らかにした。これ以上一部議員の首相・麻生太郎批判を野放しにすべきでないとする自民党執行部の配慮が、党内各派に浸透し始めた結果だろう。しかし新聞各社の世論調査の内閣支持率急落ぶりは異常であり、遅きに失した側面もある。「サンプロ」は7日、自民党の元行革担当相・渡辺喜美ら中堅・若手の有志議員グループ「速やかな政策実現を求める有志議員の会」のメンバーを多数出席させ、番組で麻生批判を盛り上げることを狙ったようだ。ところが田原によると「何人にも番組に出て欲しいと頼んだが応じない。明らかに圧力がかかっている」という。
自民党内各派実力者の間には、元首相・森喜朗の「どうして自分たちで選んでわずか2カ月の総裁を守っていく気持ちを持てないのか。自分党で自分のことしか考えない。マスコミに受けたいならお笑いタレントでもやればよい」という発言に代表される麻生擁護論がある。背景には、いま麻生を降板させては、とても自民党政権を維持できないという判断と、変えるにも候補が存在しないという事情がある。渡辺らがテレビの報道番組で麻生批判を繰り返し、こだまがこだまを呼び、支持率を急落させて、民主党の思うつぼにはまりつつある現象に歯止めをかけたいのだろう。確かに民放番組の麻生内閣切り捨て御免の傾向は、最近極めて顕著である。
例えば、比較的バランスの取れた政局の取り上げ方をしてきたTBSの「時事放談」でも、キャスターの御厨貴が最近では話をすべて麻生批判に結びつけようという姿勢に転じた。11月30日の野中広務が出席した番組は、聴くに堪えないほどバランスを失った批判に終始した。麻生憎しで凝り固まっている野中は、麻生の進退をなんとインドのテロ事件に結びつけ「これだけ人が殺され、世も末だ。国家のトップ(麻生)は出処進退を考えるべきだ」と述べた。いくら何でも、関係ない話を結びつけるようでは野中の弁舌も地に落ちた。田原も番組で政治家に対して人も無きが如くに“吠え”まくり、視聴者に不快感のみを残している。番組の後田原は、政治家に電話して非礼をわびているといわれる。永田町の通説だ。同番組は政局に影響することが時々あるため、「サンプロ現象」という流行語まで生み出しているが、思い上がりも甚だしいと言わざるを得ない。
要するに、これらの番組は、報道の中立性を条件に認可された公共の電波を使っていることを忘れている。森の「お笑いタレント」発言ではないが、売名のため尻尾を振って出る議員も出る議員だ。最近、毎日新聞の歌壇で1席を取った短歌に「思ひ出す大宅壮一のあの言葉総白痴化も完了間もなし」がある。選者篠弘は「大宅壮一が昭和31年にテレビによる弊害を予知したとおりになった」と選評を書いている。世の識者の多くがやりたい放題の民放番組に、眉をひそめているに違いない。とりわけ最近の民放政治番組の切り捨て御免の報道は、目に余るものがある。政治の本筋ではなく、首相の漢字誤読とか、失言を大々的に取り上げ、資質なきが如くこき下ろす。一方で、麻生が首相では宮沢喜一以来の英会話達者で、首脳会談で通訳なしで会話していることなど、とんと報道しない。
ブッシュとのインタビューで田原の英語を聞いた。書いた質問を読んだだけだが、ブッシュがよく理解できると思うほどの稚拙さだった。聞いていて恥ずかしくなった。こうした民放の報道ぶりに、批判の眼を持って対応できる視聴者はよいが、そうでない視聴者は単純に引きずられる。そして支持率が急落し、どんな首相も耐えられなくて降板する。自民党が危機感を抱いて政権防衛のため“お笑いタレント系議員”に圧力をかけるのも無理からぬ側面がある。コントロールが利かないのは、無派閥の渡辺だが、これは計算済みのことだろう。派閥に所属している議員には、相当の圧力になっているようだ。しかし対応が後手後手である。支持率の急落は、マスコミの影響を受けやすい中堅・若手議員に動揺を与え、抜き差しならぬ事態を招く可能性もある。
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