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2008-11-28 00:00
報道のメカニズムを知らない麻生とその側近
杉浦 正章
政治評論家
またまた舌禍事件だが、首相・麻生太郎とその周辺はいまだに報道伝達のメカニズムをまるで理解していない。冷静に発言を読めば、麻生の真意は明らかに予防医学の必要を説いたものと分かる。新聞や野党の主張のように「医療保険制度の根幹を揺るがしかねない」(毎日28日付け社説)などと大げさに受け取るたぐいの発言ではない。そんな発言を、首相たる麻生が何でするか。するわけがないのだ。問題は日本のジャーナリズムの最大の特色の一つが、発言を本意でなく、独自の反権力的ニュースセンスで取り上げるところにある。この世界を理解しないままの発言で、何人の政治家が窮地に追い込まれたことか。
今回の発言で側近がメカニズムを理解していない最大のポイントは、経済財政諮問会議の発言録を、問題部分を削除しないまま発表したことだ。この対応はまるで「私の首相がまたやりました」と天下に報告するようなものだ。マスコミにとってはありがたいことだが、政権防衛の観点から見れば愚鈍としか言えない対応だ。側近のチェック機能が全く効いていないことを物語る。麻生も「そこのとこだけ切り取られて、そこだけ読まれては、いかがなものか」と不満げだが、この発言からも報道のメカニズムを知らないことがはっきりする。日本のジャーナリズムは「切り取る」のである。それが商売なのである。
田中角栄は夜回りの筆者に面と向かって「新聞記者を近づけるのは、懐にハブを入れるようなものだ」とよく述べていたが、「ハブ」の本質をよく理解していた。従って同じざっくばらんでも、失言などは全くといってよいほどなかった。一連の麻生失言を分析すると、共通しているのは経済諮問会議などの公式の場とホテルのバーでの発言の区別が全くついていないことが分かる。ざっくばらんを売りにしてきた癖が抜けない。官房長官・河村建夫がいみじくも「いろんな発言は、これからもあると思う。(首相の)一つの個性だから」と述べているが、これもメカニズムの理解がたりない。日本のジャーナリズムは「個性だから」といって発言を許容するほどゆとりを持っていないのだ。
真意は予防医学の必要を説いたものでも、それに付随しているいわば夾雑物を、問題として取り上げるのだ。ただただマスコミの報道だけで動く民主党や野党がこれに飛びつき、これにまたマスコミが反応して、波紋の輪が広がる。「一つの個性」がこのメカニズムを理解しないままだと、もう「慢性失言病」と診断せざるを得ない症状となる。いつあの「創氏改名は朝鮮人が求めた」発言のような、超ど級失言の発作が起きるか分からない。前自民党副総裁・山崎拓から「沈黙は金。放言でメッキのたぐいがはがれないように」と嫌味を言われてしまうようでは、情けない。監督・王貞治が「プロというのはミスをしてはいけない」と述べているが、首相は拳拳服膺(けんけんふくよう)すべきだ。
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