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2008-11-06 00:00
田母神航空幕僚長の解任問題について思う
茂田 宏
元在イスラエル大使
10月31日、浜田防衛大臣は田母神航空幕僚長を解任した。理由は、同幕僚長が懸賞論文に応募し、「日本は侵略国家であったのか」との題の論文を発表、そのなかで「日本を侵略国家とするのは濡れ衣である」との見解を述べたが、この論文の内容が、村山談話などで政府が明らかにしている歴史認識に反し、不適切である、ということであった。浜田防衛大臣の航空幕僚長解任の決定は、当然自衛隊法上の規定に根拠をもつものであろう。私自身は、それを十分に検討していないので、その点の是非については触れない。「ボナパルト」というブログに転載されたこの論文を読んでみた。その歴史認識については、私は全面的には賛同しない。また、たとえば創氏改名のうち、創氏は強制であったということを理解していないなど、正確さを欠くところがある。しかし私の賛同や批判は別にして、田母神氏がかかる見解を表明する自由はあるのではないかと考える。この問題は、航空幕僚長の地位にある人が懸賞論文に応募することが適切か否かの問題のほか、いくつかの重要な問題を提起している。後者の問題について、ご参考までに私の意見を述べてみたい。
第1に、私は日本政府が「正しい歴史認識」を打ち出すことに基本的に反対である。そういうことをする国は、自由民主主義国ではない。私はソ連で勤務したことがあるが、ソ連では「正しい歴史」があり、それに反する認識は排除され、抑圧された。歴史認識の問題は各人の思想信条と深くかかわるので、これは必然的に思想・信条の抑圧につながる。私がソ連に最初に赴任した頃は、フルシチョフが解任され、ブレジネフ政権が成立した時期であった。当時ソ連政府は、フルシチョフ時代の「正しい歴史」(そこではフルシチョフが大祖国戦争で大活躍したことになっていた)を書き換えるために、歴史学者を総動員していた。ソ連共産党には「正史」があり、何度も改定された。それをテーマとした『歴史はいかに作られるか』というウルフと言う人の書いた本さえある。戦前の日本にも、「正しい歴史」があった。足利尊氏は排斥されるべき人物であり、楠正成が模範とされるべき人物であった。現在の日本には、皇国史観、唯物史観、自由主義史観など、いろいろな史観がある。これは、日本が自由民主主義国である重要な特徴である。政府が「正史」を制定することには、自由を尊重する人々は警戒心をもたなければならない。これは思想統制につながる危険がある。そもそも自由民主主義的な近代国家は、価値中立性を存立の基盤としている。村山談話は、戦後50周年の機会に主として外交上の考慮から出されたものである。これが発出に至った状況を私は私なりに理解しているが、上記の原則論に立てば、それを必要以上に強調する言説には強い疑念をもたざるを得ない。
第2に、公務員には、言論の自由は認められないのか。私は認められるべきであると考える。国会議員は特別職公務員であるが、これに言論の自由を認めないなど、ありえない。問題は、一般職公務員や自衛官(特別職公務員とされる)である。機密の保護や政治的中立性の維持のために、一般公務員や自衛官に一定の不自由を課すべきことは当然である。国家公務員法第7節(96条―第106条)には服務に関する規定があり、この中には機密の保持や政治的中立性の保持に関する規定がある。自衛隊法にも同じような規定がある。しかしそれを例外として、一般公務員も自衛官も言論の自由は有すると解釈すべきであろう。そうしないと、報道関係者が行っている取材など、オープンな政府のためのシステムが動かなくなる。これは好ましいことではない。今回の田母神氏の懸賞論文応募は、職務外のことであり、規制されるべきものとは思われない。私は外交官であったが、公務員の側には秘密指定を過剰に行う傾向がある。そういうことも、本件を考える際に考慮されるべきであろう。田母神氏以外の自衛官の応募者もあったことを、NHKなどは大問題のように報道しているが、いかなる考えに基づくのか、理解しがたい。
第3に、この問題を文民統制の問題とするのはピント外れである。文民統制とは、軍事力の使用について軍が政治指導者の命令に従うという原則である。実力組織である軍が暴走することを排除し、かつ必要な時に軍を出動させるための命令権であって、こういう細かい問題のことではない。こういう問題をも文民統制の問題とするのは、文民統制の本質を不明確にしてしまう弊害をともなう。
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