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2008-10-31 00:00
麻生総理の表明した対中姿勢を評価する
湯下 博之
杏林大学客員教授
北京で開催されたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合に出席した麻生総理は、その機会に、中国の胡錦濤国家主席及び温家宝首相、韓国の李明博大統領と個別に会談し、アジアの近隣諸国との首脳外交が順調にスタートした。政権のトップが次々と交代した日本の新しい指導者が、どのような対中、対韓政策を打ち出すのかが内外共に注目されていたが、先ずは首脳間の緊密な関係樹立の基本方針が確認され、韓国との間でも首脳の相互訪問や電話による意見交換に意見の一致を見た、と報ぜられていることは喜ばしい。中国との関係で特に注目されるのは、上記の首脳会談に加え、日中平和友好条約締結30周年の記念レセプションでの麻生総理の挨拶である。この挨拶についての報道を読んで、特に次の3点に共感を覚えた。
第一は、「中国くらい、日本にとって重要な国はない。日中関係の要諦は『互いに欠くべからざるパートナー』だ」、「日中両国は引っ越しのできない『永遠の隣人』。日中両国が、より活力ある、開かれたアジアのために、共に働き、共に伸びる、そういう日中関係を築くために、あらん限りの情熱と英知を注いでゆく決意だ」という基本認識。第二は、「日中関係に関する世論調査を見ると、不安を感じざるを得ない。日中両国とも、互いに多少なりとも肯定的な感情を持っているのは、それぞれ3割にも満たない。たとえ見解が異なっても、相手が何を考えているかは、正確に理解しておきたい。大事なのは、対話と交流が積み重ねられ、相互理解が社会の広い範囲で深まることだ」という現状認識。第三は、「『友好』というお題目のために互いに遠慮する関係ではなく、日中両国が切磋琢磨して協力していくことが、真の『戦略的互恵』関係であろう」、「日中が協力し、アジアから世界に発信すべき課題が山積している」、「私たちは同じ未来を見据えている。日中関係の『底力』に、日中関係の可能性に、もっと自信を持っていい」という基本姿勢。
日本では、最近の中国の台頭を見て、「中国はどうなるのか」、「中国はどうしようとしているのか」に関心が集まり、対中警戒論、中国脅威論が強まっているように思う。しかし、外交や対外関係は、基本的には双方向性のものであり、こちらが何をしても中国はこうなるというものではなく、日本や米国がどうするかにより、中国がどうなるかが変わってくる。したがって、日本としては、受け身で心配や警戒ばかりするというのではなく、日米関係を基軸としつつ、中国との相互理解を深めて、望ましい関係を築くことこそが必要かつ重要である。普仏戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦と、対立と戦争を繰り返したフランスとドイツが、一変して、今や協力して欧州統合推進の中心となっていることは興味深い。麻生総理の基本姿勢を具体的な形で実現させたいものである。
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