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2008-10-16 00:00
金融危機の予測を誤った米国の経済学者たち
池尾愛子
早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
10月3日に本欄への寄稿で書いたように、アメリカの多くの経済学者たちは以前から、サブプライムローンの杜撰な貸出政策や金融市場の悲惨な状況を、多少なりとも知っていた。なぜか。遡れば、住宅を売却して返済することを前提にした同融資が審査なしで始まった時が、アメリカでの住宅バブルの始まりであった。当時、アメリカの経済学者たちはほぼ一致して、住宅価格の継続的上昇が起こることを予測したようだ。その時に信用力の低い人たちも、サブプライムローン融資を受けて、彼らが期待したより高級な住宅を購入し、住宅価格が(ピーク時と限定しなくても)高水準を推移している時に売却すれば、返済すべきローンと利子を上回る資金を手にすることができる、と考えたようである。ローンと利子を返済した残りを頭金に、自分たちの期待通りか、それを越える住宅を購入できる、と予想したのである。
しかしながら、住宅バブルの始まりにサブプライムローン融資を受けた人たちの多くは、価格が高騰した時に予想された行動をとらず、「購入した」住宅に住み続けた。一旦居心地の良い家に住み始めると、愛着がうまれて、手放すことができなくなった、との解説もある。そして、今は差押えの憂き目にあっているのである。換言すれば、彼らはマネーゲームに参加する機会を与えられ、マネーゲームに参加しなくてはならなかったにもかかわらず、マネーゲームに参加しなかったのである。そして、当初は低めに抑えられていた月々あるいは年々の返済額が一挙に増額された時に、返済不能の事態に陥ったのである。彼らはもとより、マネーゲームに参加する意思のない人たちであった。
規制反対、機会均等は、アメリカの経済学者にとって共通の思想的基盤といってよい。過去2年間くらいに聞き及んだことの行間を読むことになるが、信用力の低い人たちのマネーゲームへの参加を「条件」とする融資政策については、賛否が分かれていたようである。マネーゲームに参加せずに返済不能になる人が出る可能性があることについては、予想は一致していた。しかし、それが社会的に無視できる割合かどうか、で予想が分かれていたようである。そして、無視可能と前提して、機会均等の理念に合致する購入住宅の売却による返済を「条件」とした、サブプライムローン融資が実施されたといえる。しかし予想に反して、それは無視しえない割合に上り始め、そればかりか、住宅価格のさらなる上昇が期待しにくくなった後にも、同様な融資を受けたり、詐欺的な問題融資まで受けたりする人たちが出たのである。政策の前提に誤りがあったのである。
こうした過程にまつわる情報は、政府、大学、金融機関、メディアなどに関係する人たちの間に徐々に広がって共有され、金融危機の予想が徐々に大きくなっていったようである。与党側は早く対策を打ちたかったようであるが、野党側には協力するインセンティブは働かなかった。金融危機は、対策が遅れれば遅れるほど、大きなものになる。ついにアメリカで金融危機が現実化すると、それはまもなく世界に広がったといえる。現時点でも、世界の金融危機を鎮めるために積極的に協力するよりは、アメリカの大統領になる方が重要なようだ。
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