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2008-08-28 00:00
世界遺産をめぐる日本国内の騒ぎに違和感がある
西川恵
ジャーナリスト
世界遺産をめぐる日本国内の騒ぎに違和感がある。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が、岩手県の「平泉」の世界遺産への登録を見送ったことに落胆と反発が渦巻いた。昨年は逆に島根県大田市の「石見銀山遺跡」が世界遺産に登録され、市民がちょうちん行列を行った。地域の人々が地元の文化遺産を認めてもらおうと懸命になるのは分る。観光振興、地域おこしにもつながる。だが一方で、世界遺産を無条件に絶対的価値であるかのように考える日本の風潮に違和感がぬぐえない。
最近、ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏が出した新著『世界遺産』を読むと、「世界遺産」はあくまでユネスコの文化戦略からする相対的な基準、価値付けであることがよく分る。人類の共有財産である自然や文化遺産を「遺産内容の多様性」「地域バランス」に配慮しながら登録し、その保護管理を奨励しようとの政策だ。例えば、もし平泉レベルの文化遺産が南太平洋の島嶼国にあったら、恐らく登録されただろう。世界遺産条約の締約国185カ国で、世界遺産が1件もない国は44カ国ある。このうち11カ国が南太平洋の島嶼国で、「地域バランス」の上からユネスコが登録に力を入れたいと考えている地域だからだ。
世界遺産登録には政治、経済的要素も絡んでいる。「石見銀山遺跡」は外交レベルの巻き返しが逆転登録に結びついた。逆のケースだが、昨年、オマーン政府はアラビア・オリックス(ウシ科の一種)の生息地である保護区(1994年登録)の登録削除を要請し、紛糾の末に認められた。石油開発のためと見られている。世界遺産が人々の文化への関心を高めたことは確かだが、相対化してものごとを見ていく姿勢が大切だ。
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