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2008-08-08 00:00
外交にこそ必要な「国民の目線」
杉浦正章
政治評論家
「あなた方だって、オフレコと言われれば守るでしょうが」と開き直ることでもないだろうが、外相・高村正彦が、中国国内のギョーザ事件を公表しない理由について「中国側の要請であった」ことと、政治家では福田康夫と高村に限定した情報管理であったことを認めた。犯罪行為の隠ぺいと異なり、事は国家間の外交上の約束事であるなら、無理からぬ場面でもあろう。中国側の捜査に影響を及ぼしてはならぬという配慮も分からぬ事ではない。しかし、ギョーザ問題非公表への世論の反発の根底に、国民の根強い不信感があり、外交にもはね返る要素があることを忘れてはならない。
野党が「中国から『隠ぺいしてくれ』と言われても、『公表すべきだ』と堂々と主張すべきではなかったか。あまりに弱腰で消費者、国民の目線に立った対応とはとても思えない」(民主党幹事長・鳩山由紀夫)と批判しているように、ギョーザ事件には発生時から、政府のハンドリングに対して世論の不信が継続して存在している。これは首相・福田康夫がさる3月に、中国公安省が「中国国内での毒物混入の可能性は低い」と発表したことについて「非常に前向きだ」と述べて、ひんしゅくを買った事が物語っている。福田はギョーザ事件よりも胡錦涛来日を控えて、日中首脳会談重視の選択に舵を切っていたのである。中国の公安当局は「前向き」どころか、自国民に被害が及んで、やっと真剣になったのではないか。
洞爺湖サミットの際の日中首脳会談でもギョーザ事件は取り上げられたが、発表の内容を見る限り、中国でギョーザ中毒事件が発生したという情報の片りんも見られない。福田が報告を受けていたとしたら、核心にあえて触れていないことになる。福田がいつ報告を受けたかについて、7日「正確に記憶していないが、洞爺湖サミットの頃」とぼかしているのは、その辺の事情をうかがわせる。この流れがあっての、今回の非公表事件であるから、国民の側からすれば「一体どこの国の首相か」と言われても仕方があるまい。毎日新聞も8日の社説で「今回は消費者の安心より、中国への配慮を優先させたということだろうか。この疑問に、安心実現内閣を掲げる福田首相は、明確に答える必要がある」と主張しているが、全くその通りだ。明らかにサミットとオリンピックへの配慮が見え見えなのだ。
読売新聞の世論調査では「日中関係が良いと感ずる」との問いに、「良い」は中国67%、日本36%で逆転している。中国国民のの日本に対する感情の好転は紛れもなく、四川地震での緊急救助隊の活動が中国国民に感動を与えたのであり、福田・胡錦涛会談に直接的な原因はない。日本側の好感度が低いのは、ギョーザ事件が最大の原因だろう。むしろ逆に公表していたら間違いなく中国への好感度は増大していただろう。話が通ずる国としての理解が深まるからだ。これは、日中100年の大計を考えるなら、外交にも「国民の目線」がなくてはならない事を物語っている。福田も、高村も、中国側を説得してでも公表に踏み切るべきだった。公表しても、捜査への影響があるかどうかは疑問である。中国側の主張の裏には、オリンピックへの配慮があったに過ぎない。中国国民の食の安全のためでもある。むしろ都合の悪い情報は、進んで公表した方が、日中間の信頼の回復に役立つのだ。
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