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2008-07-28 00:00
オルマート・イスラエル首相の真意はなにか?
入山映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
オルマート・イスラエル首相の最近の外交姿勢には、目を見張らせるものがある。かつてはあれほど峻拒していたハマスとの対話に踏み切ったのを始め、近隣のアラブ諸国への積極的なアプローチもこれまでに見られなかったものだ。何がこれほど急激な変化をもたらしたのか。
ファリード・ザカリア(『ニューズウィーク』誌編集長)は、彼が持っているCNNの番組GPSの中で、オルマート・イスラエル首相の最近の外交姿勢の柔軟さにふれて、「数ヶ月以内にあり得るイスラエルのイラン攻撃に備えて、近隣諸国・諸勢力との融和を図る一種の『根回し』ではないか」という興味深い見方を示した(7月21日)。イスラエルとパレスチナの国連大使が番組に参加していたが、イスラエル大使はこのコメントを言下に否定するのではなく、「外交による解決に強く期待する」と述べるに留まったのは、意味深長と言えば意味深長だった。が、むしろ番組の最後で、イスラエル大使がパレスチナ大使に向かって「お祖父さんにおなりになったそうで、おめでとう」と話しかけ、パレスチナ大使が「どうもありがとう」と応えていた親密さが、より印象的だった。
イランについては、「悪の枢軸だ」「制裁だ」とあらん限りの敵対姿勢をとっていたブッシュ政権が、ここに来て「核交渉の開始だ」「テヘランに外交部設置だ」と急展開を見せたのも、驚きではある。そんな文脈でのイスラエル外交だけに、ザカリアの観測がひときわ印象的だった。まさに国際政治は「一寸先は闇」かもしれない。しかし、オルマート外交をそうした下心だけで評価するのには疑問もある。というのも、彼は通産相時代の1999年にタカ派の重鎮として来日した際に「一つのパレスチナ国、一つのイスラエル国という解決以外に、解決はあり得ない」と明言しており、そのスタンスに限って言えば急転回した訳でも何でもないからだ。
パレスチナ問題をイラン問題と切り離して考えるのは非現実的だが、全く同一のコインの裏表と見るのも極端に過ぎはしないか。確かにイスラエルは近隣諸国の核保有に対して極めて敏感で、「ミサイルによる施設破壊も辞さない」という態度を取っているのは衆目の認めるところだ。しかし、パレスチナ支援を国是とするイランが、核兵器をイスラエルに対して使用すると考えるのもまた非現実的だとの誹りを免れまい。イスラエルのみに被害を与え、パレスチナに影響を及ぼさない核使用は考えにくいからだ。
「イスラエルを地上から抹殺する」とアラブ諸国が豪語していたのは、そんなに遠い昔の話ではない。四次にわたる戦争に全て勝つことによって存在を確立したイスラエルにとって、軍事力による存在確保はもはや本能であると言ってよいだろう。タカ派でなければ和平交渉は成功しない、というのはこの事情による。外交手段と真意あるいはホンネが一致しているように見せながら、実のところは、という例は何もどこかの将軍様だけの専売特許ではない。紆余曲折の末にイスラエルとパレスチナが、そしてブッシュ政権とイランがたどり着いたかに見える中間点は、歓迎すべきもののように見受けられる。願わくばその両者が異なったベクトルを志向するものではないことを。
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