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2008-07-17 00:00
NHKのニュース・センスはどうなっている
杉浦正章
政治評論家
NHKのニュース感覚は一体どうなっているのだろうか。ピント外れに閉口している視聴者も多いに違いない。16日夜の「ニュース7」でも、14歳少年のバスジャックを延々と10分にわたりトップで報じている。17日朝の「おはよう日本」も、やはりトップで5分間。死者どころか負傷者もない事件をここまでやるかという内容だ。NHKほどバランスのとれた報道を求められる報道機関はないのに、ニュース畑以外の会長が二代続いて、ご意見番に欠け、野放し状態になっているのではないか。トップで10分間といえば、新聞で言えば一面全部つぶして、2面、3面、社会面にも展開するほどの分量であり、ニュース価値のある問題である。17日の紙面を見れば、朝日新聞は一面3段、毎日新聞が同4段、読売新聞が3段、産経新聞が3段、日経新聞は当然ながら1面にない。
バスジャックという特異なニュースであり、犯人が殺傷行為でもしていれば、ある程度のニュース価値はあるが、午後7時の段階で決着がついている一過性のニュースに、これだけの反応をするのはどう見てもおかしい。新聞がこのニュースをトップに扱ったら、整理部長はクビになる。驚いたことに、17日の朝7時になってもトップだ。延々と少年の足取りを追っている。最近のNHKは、社会部種偏重が著しい。事件報道を見ても、少年による猟奇事件でも発生しようものなら、延々一週間にわたって朝昼晩とトップを続ける。新聞で紙面から消えてもやっている。視聴者が閉口しているのに気づかない。政治や経済に何が起きても、我関せずである。地震報道でも一定震度を上回ると、被害ゼロでも“狂ったように”それに専念する。
恐らくニュース・センスや、視聴者の関心よりも、マニュアルが優先しているに違いない。大リーグも、NHKをみていると、スターは松井秀喜だけかと誤判断する。松井といえども大リーグのスター選手の中のワン・オブ・ゼムであるという感覚がないからだ。2006年の松井の負傷の時は驚いた。朝、夜、朝とトップで「松井負傷」だ。いくら大リーグの放映権を独占し、高い放映権料を払っているからといって、一般視聴者にはそれほどの関心はない。スポーツ紙か、民放のワイドショウ並みの判断である。NHKには唯我独尊のニュース判断、いわば「押しつけセンセーショナリズム」がある、と断ぜざるを得ない。とくにNHKの海老沢勝二が会長職を追われて以来、社会種偏重の傾向が強く、ニュース報道が軽くなった。優秀な政治記者であった海老沢は、朝5時に起きてニュースをみて、報道局に直接指示することも度々あったといわれている。夜中のラジオのニュースまで聞いていたという。ニュースが分かる会長が去り、技術畑出身の会長や財界出身の会長が続いて、NHKニュースの判断基準の核となる人物が欠けてしまっているのではないか。
「ニュース7」にしても、延々10分も「バスジャック」をやると予め分かっていれば、視聴者はチャンネルを変えるが、次に重要ニュースがあるかもしれない、と思うから変えないで見ている。次のニュースが何かを分からなくしているのは、視聴率維持のための“手法”かと勘ぐりたくなる。「ニュース7」は、まず冒頭に報道すべきニュースの項目を挙げて、報道する時間まで分かるようにすべきだ。「ニュースがないから引き延ばせ」と報道局で上司が怒鳴っている姿が目に浮かぶが、何も「ニュース7」は生ニュースにこだわる必要もあるまい。解説委員はうじゃうじゃいるのだから、遊ばせておかないで、政治、経済、社会、文化にわたる重厚な「5分間解説」でもやってはどうか。とにかく公共放送としてバランスの取れた報道を求められているNHKのニュース・デスクのセンスを疑う報道が多すぎる。
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