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2008-07-16 00:00
民間財団「世界基金」への日本政府の巨額拠出を考える
入山映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
5月23日に福田首相が5億6千万ドルの拠出を約束した「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(世界基金)とは、2002年にスイス法人として設立された民間の財団である。一民間財団に政府が何百億もの資金を拠出するというのは異例の出来事であり、日本で特定の公益法人に首相がこんな約束をしようものなら、不祥事とはいわないまでも、著しく不適当だとか、その判断の是非を問う、みたいな論調があってもおかしくあるまい。それが各紙ともあっさり拠出を報じて、なんの疑念も呈さない、というのはなぜだろう。
ひとつには、この財団が異例づくめの存在であることにもよる。そもそもの発足時点から日本のみならずEU・米国を始めとする政府拠出が百億ドルを超え、それにかのジョージ・ソロスやゲイツなど巨大民間財団、さらには企業や企業財団も資金を拠出するという構成で、しかも事業内容は三大感染症の撲滅に限る、ということだから、やれ人権だ、ジェンダーだと大風呂敷がお好きな西欧流と明らかに一線を画しているのみならず、現時点で136カ国に対して一兆円の事業を展開するというのだから、予算規模が半端ではない。
しかも、非能率を以て鳴る国連諸機関ではなく、民間財団である。もちろんこれほど巨大な組織になれば、触れ込みほどに民間であることの利点や機動性が確保できる訳ではないが、とにかくお役人の仕事とはひと味違う味付けが随所に見られる。その一例が事業評価について専門家のチームを組織していることで、その綱領が、50年にわたる公的開発援助(ODA)の経験を「反面教師とする(unlearn)」というのだから泣けてくるような話だ。こういう組織を拠出対象に選定したのが、福田さんか、外務省かは知らないが、オカネだけではなく、哲学をぜひ見習って欲しいものだと思う。
捜さなければ患者が見つからないような疾患に熱を上げている財団もあれば、職員の慰安旅行にオカネを使ってはばからない社団もある。そんな中で、中世に「黒死病」と恐れられたペストよりも甚大な被害を人類に与えている3大疾患に対して、世界が、そして日本が、関心を示したというのは良いニュースだ。何よりも、それがお役所仕事ではなく、民間のイニシアティブだというのが、市民社会の前途に光をもたらしている。日本における民間国際活動の草分けである山本正氏が、心ない人々によって「外務省の外郭団体」呼ばわりをされながら、歯を食いしばって孤軍奮闘してきたこの半世紀が、ようやく報われようとしているのも良いニュースだ。
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