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2008-07-11 00:00
洞爺湖サミットを取材して思うこと
伊奈久喜
新聞記者
嶌信彦さんのようにすべての主要国首脳会議(サミット)を現場から取材した経験があるわけではないが、数えてみたら洞爺湖サミットを含め、9回のサミットを現場に近いところで見てきたことに気づいた。数点、感想を述べる。
第一に、自己否定のような言い方になるが、サミット報道は、相当に操作された情報に基づいてなされる。各国とも事情はそう変わらないだろうが、少なくとも日本の場合、会議内容を説明する外務省高官は、サミットにおけるプレス説明のグランド・ルールをしばしば口にする。それは自国の首脳の発言は明らかにするが、他国の首脳の発言は具体的には説明しない、というものだ。当然のように思われるだろう。しかしそれを踏まえた報道は、自国の首脳がいつも会議をリードしたような印象をあたえる結果になる。日本の場合、他国首脳の発言でも、日本に都合のいい場合は、おそらく先方の了解を得て説明者が明らかにする場合もある。ますます日本の首相は大活躍の印象になる。
第二に、官僚化である。山の上のウインザー・ホテルを会場とした洞爺湖サミットは、リトリート方式と呼ばれる。反グローバリゼーションのデモ隊を遠ざけるのを主な目的に、最近のサミットはいつもそうだが、リトリートの意味が少し変わってきたようにも思える。以前は周囲の雑音を遮断して首脳たちがうちとけた会話をするという意味であり、デモ隊、プレスだけでなく、官僚たちも遠ざけられた。今回は違う。伝統的な安全保障問題であれば、首脳たちは自分の言葉で語れたかもしれないが、今回は原油や食料価格の上昇、気候温暖化など、政治家たる首脳たちにとっては、苦手なテーマだった。官僚に頼らざるを得ない。テーマが「人間の安全保障」の領域になればなるほど、そして実質的に議論参加国が増えれば増えるほど、官僚たちの出番となり、外交修辞ではあるが、実効性の乏しい紙が大量に生産される。
第三に、拡大会合に参加した中国の影である。京都の外相会合、洞爺湖の首脳会合を通じ、ジンバブエはみんなで思いっきり批判した。しかし中国当局とダライラマ側の対話がうまくいっていないチベット情勢は、だれも言及しなかった。数カ月前のあの熱気はなんだったのか。G8首脳は物忘れの激しい人たちらしい。
第四に、したがって価値観の共有のないメンバーによる多数国会議は弁論大会になり、問題解決の場にはならない。温暖化はG8だけでは解決できない、などを根拠にG8拡大論があるが、それはG8システムにとっての死である。弁論大会は見ていて楽しいから、参加者もプレスも喜ぶ。外交官も出張できるから、喜ぶのかもしれない。でも、お祭りのような会議のコストを負担する各国の納税者はどう考えるだろうか。
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