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2008-07-02 00:00
若者が海外にチャレンジできる環境を整えよう
福嶋 輝彦
桜美林大学教授
ここでは、大学に教員として籍を置く人間として、この数ヵ月痛感していることをご披露したい。筆者の教える「桜美林大学国際学部」の学生の典型的ステレオ・タイプは、神奈川県の中堅県立高校出身の英語好きの女子学生といったところであろうか。したがって、海外留学への意欲は極めて高く、在学中に1年間留学の本学海外提携大学の限られた枠を競い合うのが常であった。1992年のロス暴動の翌年は、アメリカの大学枠が余ることはあっても、逆にイギリスやオーストラリアが人気を集めたものである。ところが、近年この枠がめったに埋まらなくなっている。この現象は本学だけに限られるものでもないようで、手元の資料では、アメリカの高等教育機関で学ぶ日本人学生の数は、3、4年前ほどから下降線を辿っており、最盛期と比べると年間1万人以上も減ってしまっているようである。
筆者も経験しているが、日本から海外への留学は、一種の賭けでもある。その点、最近の学生に接していると、「無駄になる」とか「効率が悪い」こと、つまり賭けを敬遠する傾向が強くなっている。それが、海外留学減少の理由だとすれば、教える立場として、われわれがその責を負わねばならないのは当然のことである。しかし、周囲の学生に理由を訊いてみると、それだけが原因であるようではないらしい。彼ら彼女らが一様に指摘するのは、「お金がかかる」ということである。確かに、近年欧米諸国と比べると、東京の割安感を相当実感することができる。無理もない、それなら筆者の学生にはワーキング・ホリデーに挑戦してもらおうか、と思って調べたところ、こちらも近年頭打ち傾向のようである。
そこで、突っ込んで訊いてみると、ネックは就活であった。学部4年間で留学が最も効果があるのは、自分の専門分野に関する知識も一応身に付けた3、4年次の段階であろう。ところが、今や就活は3年次後期、いや前期には本格的に始まっている。こんな重要なときに、日本を留守にしていては、自分が志す企業から内定をもらえないのではないか、と心配がよぎるのも無理あるまい。ましてや、自分の能力を信じて上を目指したいという、志の高い学生なら尚更であろう。普通の学生の場合でも、彼ら彼女らは「ワーキング・プア」や「ネットカフェ難民」という言葉に非常に敏感である。就活に関する相談を受ければ、自分の可愛い学生であるからこそ、そして10年前の就職超氷河期の学生たちの苦労を見ているからこそ、筆者としても「やはりまずは正規社員として就職するのが一番」と助言せざるをえない。
翻って、日本にとって「失われた10年」の意味を問われれば、それはわれわれが国際基準に合わせるという名の下に、むしろ戦後かつてなく内向きになってしまった時期なのではないだろうか。企業は無駄な支出をカットするために、次々と海外の拠点をたたんでいる。若者は正規社員の地位のために、海外に出るのに立ちすくんでしまっている。優秀な研究者を目指す高いレベルの学生や、裕福な家庭出身の学生なら、まだチャンスはあるだろう。問題は、筆者が教えてきたような、意欲はあれども、平均的家庭出身の普通の学生を如何に海外留学へ、それも12ヶ月程度の長期のそれに導くか、という点である。今日本が閉塞しているからこそ、これまでの経済的成功の縁の下を支えてきた、普通の「地上の星」の卵たちに、是非海外での貴重な経験を積んでもらいたい。われわれ大学人としても、今後若者に海外チャレンジするよう働きかけていくのは勿論であるが、社会の側でも海外留学でしっかり成果を上げてきた学生は、むしろ歓迎というメッセージを強力に発信して、彼ら彼女らを勇気づけてもらいたい。
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